悪性リンパ腫

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概要

白血球の一種であるリンパ球ががん化して起こる病気です。リンパ球は全身に存在して様々な種類があり、それらが協調して微生物やがん細胞から体を守る「免疫」という働きを遂行しています。そのため、リンパ球のがんである悪性リンパ腫は体のどこにでもできる可能性があり、しばしば免疫作用の異常による症状を伴って、発熱や全身倦怠など捉えどころのない症状となって現れます。またリンパ球の種類の多さに対応して、悪性リンパ腫もまた非常にたくさんの種類があり、50以上の種類に区別されていますが、悪性リンパ腫の治療においては、どの種類のリンパ腫に当たるかという診断が極めて重要です。

診断

病理検査

リンパ腫の診断には病理検査が必須です。多くの場合腫れたリンパ節を摘出して調べます(リンパ節生検)が、リンパ節以外の組織の一部を採取して調べることもあります。調べる内容はがん化している細胞の種類や組織の構成、染色体、特定の遺伝子の様子などです。数日~2週間程度の日数を要しますが、治療方針の決定において要となる検査です。

CT・PET-CT・消化管内視鏡・気管支鏡・その他検査

リンパ腫の病変は、体のあらゆる場所から始まる可能性があり、またあらゆる場所に広がる可能性があります。PET-CTは病変の広がりを把握するために極めて有用な検査であり、胃腸に病変がある(あるいは疑われる)場合は内視鏡検査も行います。肺に病変が生じ気管支鏡を行う場合もあります。

血液中や、白血球が作られる場である骨髄にもリンパ腫細胞(がん化したリンパ球)が出現することがあり、採血や、骨髄検査(骨髄穿刺・生検)も重要です。腫瘍を形成せず、血管の中や、胸水や腹水の中でのみ増殖する特殊なタイプのリンパ腫もあり皮膚生検や体腔液の検査が必要になります。また、悪性リンパ腫は免疫と密接な関係があり、血液検査によりリンパ腫の背景にある免疫異常や、特定のウイルスの感染状態について把握することも重要です。

これらの検査の結果から、リンパ腫の種類、広がり(病期)や腫瘍量を把握し、予後予測スコアを算出し、さらに患者さまのご年齢や合併症を加味して、個々の患者さまに最も適した治療方針を決定します。

主なリンパ腫のタイプと治療法

1. びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)

リンパ腫の中では最も多く見られるタイプで、中悪性度のグループに属します。初発時は、抗体薬と抗がん剤、ステロイド剤を併用するR-CHOP療法を6回(~8回)繰り返すのが標準的な治療法ですが、病変が限局している場合はR-CHOP療法を3回に局所の放射線療法を合わせた治療を行うこともあります。初回は入院で治療を行ったのち、患者さまの条件に合わせて外来通院あるいは入院を反復して治療を行います。

期待される効果は患者さまの予後予測スコアによって異なりますが、約60%の患者さまで治癒を得ることができます、再発・難治例に対しては、当科では、R-GDP療法あるいはR-EPOCHを中心に行っています。これらの治療に反応があった場合、70歳くらいまでで問題となる合併症のない患者さまであれば、自己末梢血幹細胞移植をを用いた大量化学療法を実施します。同種造血幹細胞移植の選択も考えられる場合は、移植施設との連携の上、適切な時期に移植を受けていただけるよう対応いたします。

近年では、CAR-T(カー・ティー)療法という、患者さま自身のT細胞を遺伝子改変して、リンパ腫細胞を攻撃するようにつくりかえたものを使用する新たな細胞療法が開発されており、同治療施設への連携も行います。

2. 高悪性度B細胞性リンパ腫

急速に進行する悪性度の高いリンパ腫で、EPOCH-Rと中枢神経病変予防のためAraC/MTX大量療法を組み合わせた治療を行います。バーキットリンパ腫は診断時すでに進行し重症となっている事が多いリンパ腫ですが、一方で抗がん剤への感受性は高く、寛解に到達できれば再発しにくいリンパ腫です。

3. 濾胞性リンパ腫(FL)

穏やかな経過をとる低悪性度リンパ腫の一つであり、腫瘍量が少ない場合は、経過観察またはリツキシマブ単剤による治療を行います。腫瘍量が多い場合はベンダムスチンとリツキシマブ(R)あるいはオビヌツムマブ(G)の併用療法を行い、続いてRまたはGによる維持療法をおこないます。穏やかなリンパ腫ですが一方で根治せしめるのが困難なリンパ腫でもあり、再発・難治例に対しては、患者さまの条件に応じて、前記治療法の反復や、DLBCLに用いる様な治療を行います。

4. 濾胞辺縁帯リンパ腫(MALTリンパ腫)

リンパ節外に病変を作ることが多いリンパ腫で、胃、肺、甲状腺、涙腺、脾臓などに生じます。低悪性度リンパ腫であり、ヘリコバクター・ピロリ感染や、自己免疫疾患などを背景に発症することがあります。状況に応じてピロリ除菌療法や、放射線療法、濾胞性リンパ腫に用いる様な化学療法を行います。

5. マントル細胞リンパ腫(MCL)

難治性のリンパ腫で、低悪性度と高悪性度リンパ腫の中間的な性質を持つリンパ腫です。年齢や合併症を考慮して、可能であればベンダムスチンとリツキシマブ、シタラビン大量療法に続いて自己末梢血造血幹細胞移植(AutoPBSCT)を組み込んだ強力な治療を行います。

強力な治療が困難な患者さまに対しては、ベンダムスチンとリツキシマブによる治療、あるいはイブルチニブ(ブルトンキナーゼ阻害分子標的薬)による治療を行います。

6. 古典的ホジキンリンパ腫(CHL)

特有の病理組織学的特徴を有するリンパ腫であり、好発年齢にいわゆるAYA世代を含む若年層と高齢層の2つのピークがあります。若年層の予後は比較的良好ですが、高齢層では必ずしも予後が良いとは言えず、また若年の方でも進行している場合は難治性の経過をとることがあります。様々な原因による免疫不全を背景として発症する場合があり、EBウイルスの活動性感染との関連性を認めることもあります。

進行期ではABVD療法が標準治療とされてきましたが、抗体-薬物複合体であるブレンツキシマブ-ベドチン(BV)を併用したA-AVD療法も同様に有効であり、当科ではこれらを患者さまの条件に合わせて用いています。再発難治例に対しては、条件を満たせばAutoPBSCTを実施します。

7. 成人T細胞性白血病/リンパ腫(ATLL)

HTLV-1ウイルスは主として母乳を介して感染するウイルスですが、幼少期にこのウイルスに感染した方のうち一部(約5%)の方で、中年以降に発症するリンパ腫です。非常に難治性のリンパ腫で、抗がん剤治療(mLSG15療法やCHOP療法)を行いつつ移植施設と連絡をとり、可能であれば同種造血幹細胞移植を行う方針で治療を進めますが、ご年齢や合併症、病勢進行の速さ等から、移植治療が実施できない場合が多い事も事実です。

患者さまの条件にあわせて通常の抗がん剤のほか、抗体薬であるモガムリズマブやブレンツキシマブ-ベドチンを単剤あるいは抗がん剤との併用治療を行っています。

8. 免疫芽球性T細胞リンパ腫およびその他の末梢性T細胞リンパ腫

比較的頻度の少ないリンパ腫で病態やなおりやすさも様々なものが含まれます。診断そのものが困難な場合もあり、詳細な免疫染色を含む病理検査に加え、染色体分析や、遺伝子検査、ウイルス学的検査、病歴や全身症状を加味した総合的所見を検討し、迅速に正確な診断に至れるよう努力します。標準的な治療が確立されていない疾患群ですが、CHOP療法を基本とし、難治例にはGDP療法やEPOCH療法を実施します。

また上記モガムリズマブやブレンツキシマブ-ベドチンを症例に応じて治療に組み入れています。

以上の治療法の他にも新規薬剤の開発が活発な分野であり、有用な新規薬については積極的に導入しています。