【問題1】70歳の男性。歩きにくさを主訴に来院した。歩行の動画を示す。
この所見から想定されるものはどれか。
患者はハの字型に開脚し、歩幅が小さく(petit-pas gait)、歩隔が拡大し(broad-based gait)、足の挙上高が低下し、磁石で床に張り付いているかのような歩容(magnet gait)を呈している。これらは正常圧水頭症に特徴的な所見とされている。1)
(1)多発筋炎は炎症性筋疾患の一つで、四肢の近位筋が優位に侵されやすい。そのため、立ち上がり動作困難や階段昇降困難、臀筋の筋力低下により体幹を左右に揺すりながら歩く動揺性歩行(waddling gait)などの症状を呈する。
(2)小脳が侵される疾患では小脳性失調性歩行を呈する。すなわち、歩隔が広く、体幹の動揺はみられるが、膝はあまり高く上げない。つぎ脚歩行(tandem gait)は困難で、一歩ごとに脚は直線からそれて体幹は動揺する。また、両手はリズミカルに振らず、体のバランスを補整するように、あたかも健常者が細い丸太橋を渡るときのような動きを示す。2)
(3)正解
(4)ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)関連脊髄症はHTLV-1のキャリアにみられる慢性進行性の痙性脊髄麻痺を示す疾患で、両下肢の痙直による歩行障害(痙性歩行)を呈する。すなわち、膝は突っ張って、歩行時の自然な屈伸が減少し、足関節はやや尖足位を示し、爪先が十分上がらない。2)
(5)閉塞性動脈硬化症では、歩行時に下肢(通常は腓腹部)の疼痛、疼き、痙攣、不快感、または疲労感が生じ、安静時には軽減する間欠性跛行を引き起こす。
【参考文献】
1)數井裕光. 特発性正常圧水頭症の診断. 老年期認知症研究会誌 2010. Vol 16, 113-114.
2) 水野美邦 編. 神経内科ハンドブック−鑑別診断と治療. 第5版, 東京, 医学書院, 2016, 291-292.