種類 | 問い | 答え |
1音 | 機序 | 房室弁の閉じる音(特に僧帽弁) |
時相 | 収縮期が始まるタイミング | |
性状 | 比較的低調で長く鈍い音 | |
部位 | 心基部よりも心尖部で明瞭に聞こえる | |
亢進 | 僧帽弁狭窄,頻脈(貧血・発熱・甲状腺機能亢進),PQ短縮(WPW症候群)など | |
減弱 | 心機能低下,PQ延長(1度房室ブロック),僧帽弁閉鎖不全など | |
変動 | 心房細動や機械的交互脈,電気的交互脈など | |
大砲音 | 3度房室ブロック時に心房と心室が同時に収縮するため(別名キャノンサウンド) | |
分裂 | 三尖弁性1音や大動脈弁駆出音,エプスタイン奇型 | |
2音 | 機序 | 半月弁(大動脈弁と肺動脈弁)の閉じる音 |
時相 | 収縮期が終わるタイミング | |
性状 | 比較的高調で短く鋭い音 | |
部位 | 心尖部よりも心基部で明瞭(肺動脈成分は第2〜3肋間胸骨左縁で聴取) | |
エルプ領域 | 第3肋間胸骨左縁(別名,心臓の窓)で2音の聴診に有用 | |
亢進 | 高血圧や肺高血圧,大動脈弁逆流,肺動脈弁逆流など | |
減弱 | 大動脈弁狭窄や肺動脈弁狭窄など | |
生理的分裂 | 吸気時に肺動脈成分が遅れて分裂し呼気時に消失する | |
固定性分裂 | 分裂間隔が呼吸によらず一定(心房中隔欠損や房室中隔欠損など) | |
奇異性分裂 | 吸気時より呼気時に分裂が明瞭(左脚ブロックや重症大動脈弁狭窄など) | |
病的分裂 | 呼気・吸気ともに幅広く分裂(心室中隔欠損や右脚ブロックなど) | |
単一2音 | 重症肺動脈弁狭窄や肺動脈閉鎖,フォンタン術後,ファロー四徴症など |
種類 | 問い | 答え |
3音 | 機序 | 心室急速充満期に発生する振動音と考えられている(心室の苦しみ) |
時相 | 拡張早期(2音の120-200ms後) | |
性状 | 低調成分の多い小さな音(聴診器のベルで聴取し,通常は膜で聴取しない) | |
部位 | 最強点は心尖部(特に左側臥位時) | |
意義 | 心室拡張期容量負荷や心不全を示唆(重症の僧帽弁逆流や拡張型心筋症など) | |
生理的 | 若年の健常者(〜20歳)でもしばしば聴取する(病的意義はない) | |
鑑別 | 僧帽弁狭窄の僧帽弁開放音と収縮性心膜炎の心膜叩打音 | |
4音 | 機序 | 心房の強い収縮で心室筋が伸展する音と考えられている(心房の苦しみ) |
時相 | 拡張後期(1音の直前でP波の140-240ms後,心房細動時には消失) | |
性状 | 低調成分の多い小さい音(聴診器のベルで聴取し,通常は膜で聴取しない) | |
部位 | 最強点は心尖部(特に左側臥位時) | |
意義 | 左室のコンプライアンス低下を示唆(肥大型心筋症や大動脈弁狭窄など) | |
生理的? | 健常者で聴取することはなく常に病的と考える(ただし反対意見もある) | |
鑑別 | 1音の分裂や前収縮期雑音,駆出音 | |
奔馬調(律) | 機序 | 3音あるいは4音(稀に両方)を伴う頻脈(読み方:奔馬=ほんば) |
時相 | 拡張期に過剰心音(3音か4音かを鑑別することは困難) | |
性状 | 馬の駆けるような音で別名はギャロップ | |
部位 | 心尖部(聴診器のベルで聴取し,通常は膜で聴取しない) | |
意義 | 重篤な心不全(ただし幼少児の頻脈時などでも聴取) | |
鑑別 | 心室性奔馬調律や心房性奔馬調律,重合奔馬調律,四部調律 | |
僧帽弁開放音 | 機序 | 僧帽弁の開放によって生じる |
時相 | 拡張早期(2音の30-120ms後) | |
性状 | 高調音 | |
部位 | 頚部〜心尖部まで広く分布 | |
意義 | 僧帽弁狭窄の最も特徴的な所見の一つ | |
鑑別 | 2音の分裂(胸骨左縁に限局),3音(低音成分) | |
心膜ノック音 | 機序 | 心室への流入を肥厚した心膜が阻害する音(別名,心膜叩打音) |
時相 | 拡張早期(2音の60-160ms後,3音の前) | |
性状 | 中調音(僧帽弁開放音と3音の間) | |
部位 | 広い範囲で聴取可能 | |
意義 | 収縮性心膜炎の最も特徴的な所見の一つ | |
鑑別 | 3音(聴診器のベルを押し付けると消失) | |
クリック音 | 機序 | 僧帽弁が反転する音 |
時相 | 収縮中期(1音と2音の間) | |
性状 | パチンとはじけるような高調音 | |
部位 | 広い範囲で聴取可能(ただし認識することは意外に難しい) | |
意義 | 初期の僧帽弁逸脱の最も特徴的な所見 | |
駆出音 | 機序 | 半月弁開放の突然停止に時に生じる音 |
時相 | 1音の直後で,通常は直後に収縮期雑音を伴う | |
性状 | 鋭い高調音 | |
部位 | 広い範囲で聴取 | |
意義 | 大動脈二尖弁や大動脈弁狭窄,肺動脈弁狭窄,上行大動脈の拡大で出現 |
時相 | 種類 | 問い | 答え |
収縮期 | 駆出性 (収縮中期) |
機序 | 血液が大血管に駆出される時に生じる雑音 |
時相 | 1音の後から始まり2音の手前で終わる(1音と2音は聴取可能) | ||
性状 | 通常は低音であるが重症化すると高音化 | ||
特徴 | 先行するRR間隔が延長した時に雑音が大きくなる | ||
意義 | 大動脈弁狭窄症や閉塞性肥大型心筋症,機能性雑音など | ||
逆流性 (全収縮期) |
機序 | 血液が心室や心房に逆流する時に生じる雑音(=汎収縮期雑音) | |
時相 | 1音から2音まで連続する(1音と2音の聴取は難しい) | ||
性状 | 通常は平坦で高音であるが重症化すると低音化 | ||
特徴 | 先行するRR間隔に雑音の大きさが影響を受けない | ||
意義 | あれば異常で,僧帽弁逆流・三尖弁逆流・心室中隔欠損症のいずれか | ||
逆流性 (収縮前期) |
機序 | 血液が心室や心房に逆流する時に生じる雑音 | |
時相 | 1音を覆い2音までに終了(1音の聴取は難しいが2音はできる) | ||
性状 | 通常は平坦で高音であるが重症化すると低音化 | ||
特徴 | 先行するRR間隔に雑音の大きさが影響を受けない | ||
意義 | あれば異常で,僧帽弁逆流・三尖弁逆流・心室中隔欠損症など | ||
逆流性 (収縮後期) |
機序 | 血液が心室や心房に逆流する時に生じる雑音 | |
時相 | 収縮後期に始まり2音まで連続(1音は聴取できるが2音は難しい) | ||
性状 | 通常は平坦で高音であるが重症化すると低音化 | ||
特徴 | 先行するRR間隔に雑音の大きさが影響を受けない | ||
意義 | あれば異常で,僧帽弁逸脱による僧帽弁逆流が多い | ||
拡張期 | 逆流性 (全拡張期) |
機序 | 血液が大動脈から左室へ逆流する時に生じる |
時相 | 2音より始まり減衰しながら1音まで持続(2音は聴取困難なことが多い) | ||
性状 | 高調性の音で吹鳴性あるいは灌水様 | ||
意義 | 大動脈弁逆流や肺動脈弁逆流など(ポイント:拡張期雑音は常に異常) | ||
逆流性 (拡張早期) |
機序 | 血液が大動脈から左室へ逆流する時に生じる | |
時相 | 2音より始まり速やかに減衰して1音まで持続しない(2音は聴取困難) | ||
性状 | 高調性の音(肺動脈弁性は大動脈弁性ほど高調でないことが多い) | ||
意義 | 高度の大動脈弁逆流や肺動脈弁逆流など | ||
ランブル (拡張中期) |
機序 | 房室弁口を血液が通過するために生じる | |
時相 | 2音より少し遅れて始まる(2音は聴取できる) | ||
性状 | 低調で漸減性(雷のゴロゴロという音) | ||
意義 | 僧帽弁狭窄や重症の心房中隔欠損,重症の心室中隔欠損など | ||
前収縮期雑音 (拡張後期) |
機序 | 心房収縮に伴い房室弁口を血液が通過するために生じる | |
時相 | 1音の直前でP波に一致 | ||
性状 | 低調で漸増性 | ||
意義 | 僧帽弁狭窄(ただし心房細動時には消失する) | ||
その他 | 連続性雑音 | 機序 | 高圧系→低圧系への連続的な血流音(厳密には心雑音でない) |
時相 | 収縮期と拡張期を通じて連続する(往復雑音とは要区別) | ||
性状 | 漸増漸減型であり2音付近で雑音が最強になる | ||
意義 | 動脈管開存やバルサルバ洞動脈瘤破裂,肺動静脈瘻,冠動脈瘻など | ||
往復雑音 | 機序 | 収縮期雑音と逆流性拡張期雑音の組み合わせ | |
時相 | 原則は2音の直前で雑音が一瞬途切れる | ||
性状 | 様々であるが,2音を境に音質が変化する | ||
意義 | 大動脈弁狭窄兼逆流あるいは僧帽弁逆流+大動脈弁逆流など | ||
心膜摩擦音 | 機序 | 臓側心膜層と壁側心膜層の炎症性癒着部のずれ | |
時相 | 収縮期,拡張期と収縮期,あるいは三相性 | ||
性状 | 多種多様(シュポシュポ:機関車の駆動音〜引っ掻き音) | ||
意義 | 急性心膜炎に特徴的(ただし心膜液が増加すると消失する) | ||
レバイン分類 | 1度 | 極めて弱い雑音.聴診器を当ててもすぐには認識できない. | |
2度 | 弱い雑音.聴診器を当てれば即座に気がつく. | ||
3度 | 中等度の雑音.振戦(スリル)は伴わない. | ||
4度 | 強い雑音.振戦(スリル)を伴う. | ||
5度 | とても強い雑音.聴診器を胸壁から離すと聞こえない. | ||
6度 | 極めて強い雑音.聴診器が胸壁に触れてなくても聞こえる. |
種類 | 問い | 答え |
重要 | 大動脈弁狭窄 | 収縮期の駆出性雑音,重症例では2音が減弱 |
大動脈弁逆流 | 拡張期の灌水様雑音(前屈姿勢で聴取しやすい),重症例では直ちに漸減 | |
僧帽弁狭窄 | 僧帽弁開放音,1音の亢進,拡張期ランブル | |
僧帽弁逆流 | 収縮期の逆流性雑音,1音の減弱,重症例では3音やランブル | |
僧帽弁逸脱 | 収縮中期のクリック音(聞き逃すことが意外に多い) | |
僧帽弁逸脱+逆流 | 漸増する収縮後期の逆流性雑音,クリック音(不明瞭なことも多い) | |
心不全 | 心尖部で3音や奔馬調律(別名ギャロップ,馬の駆けるような音) | |
心室中隔欠損 | 全収縮期雑音(1音と2音の聴取は難しい) | |
収縮性心膜炎 | 広い範囲で心膜ノック(叩打)音 | |
急性心膜炎 | 心膜摩擦音(例:シュポシュポ,カリカリカリ) | |
参考 | 高血圧 | 2音の亢進かつ有響性(太鼓が響く感じ) |
肥大型心筋症 | 心尖部で4音,閉塞性なら収縮期の駆出性雑音あり | |
右脚ブロック | 2音の病的分裂(呼吸性変動は少し残ることが多い) | |
左脚ブロック | 2音の奇異性分裂 | |
心房中隔欠損 | 肺動脈の駆出性収縮期雑音,2音の固定性あるいは病的分裂 | |
動脈管開存 | 石臼をひくような連続性雑音(2音をまたぐ点が往復雑音とは異なる) | |
三尖弁逆流 | 吸気で増強し呼気で減弱する収縮期雑音(分かりにくい症例も多いが・・・) | |
1度房室ブロック | 1音の減弱 | |
3度房室ブロック | 大砲音(別名キャノンサウンドで突然ドン!と大きくなる) | |
エプスタイン奇型 | 三尖弁帆反転音(sail sound),1音の分裂 | |
左房粘液腫 | 腫瘍プロップ(tumor plop),僧帽弁口を閉塞すると拡張期ランブル | |
その他 | グラハム・スティール雑音 | 肺高血圧で生じた肺動脈弁逆流による高調の拡張早期漸減性の雑音 |
カーリー・クームス雑音 | 僧帽弁逆流症時に僧帽弁通過血量の増大により生じた拡張期ランブル | |
オースチン・フリント雑音 | 大動脈弁逆流による僧帽弁前尖の開放制限のため生じた拡張期ランブル | |
リベロ・カルバイヨ徴候 | 胸骨左縁下部で吸気時に増強する全収縮期雑音(三尖弁逆流を示唆) | |
機能性雑音 | 無害性雑音とも言われる弱い収縮期雑音(レバイン3度以下) | |
楽音様雑音 | 腱索や肺動脈弁などが収縮期に振動するため(正常小児など) | |
スチル雑音 | 機能性雑音の一つで,若い健常者に多い短い低調性雑音(例,ブン) | |
ブランコ様雑音 | 拡張期雑音と収縮期雑音が同時に存在する状態(別名は往復雑音) | |
ペースメーカ音 | 肋間神経の刺激に伴う筋攣縮(高調な音) | |
人工弁音 | 多種多様(機械弁はシャープな音,生体弁はソフトな音) | |
静脈コマ音 | 静脈系の血流変化によって生じる連続雑音(正常小児や貧血,妊娠など) | |
ハマンズサイン | 縦隔気腫や心膜気腫,左気胸で聴取されるクリック音 |