前立腺肥大

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概要

診療ガイドラインでは「前立腺の良性過形成による下部尿路機能障害を呈する疾患で、通常は前立腺腫大と膀胱出口部閉塞を示唆する下部尿路症状を伴う」と定めている。
尿道をとりまく移行域(transition zone)が腫大し尿道と辺縁域(peripheral zone)を圧迫することにより排尿障害を引き起こす。

疫学

前立腺肥大症は中高年男性にみられる進行性の疾患で、有病率(前立腺症状スコア > 7、前立腺体積 > 20ml、最大尿流率 < 10ml/secを満たす)は60歳代で6%、70歳代で12%である。組織学的な前立腺肥大は30歳代より認められ、その頻度は加齢に従って増加し、80歳代では約90%になる。前立腺肥大は生理的な加齢現象と考えられている。

検査・診断方法

下部尿路症状の評価には国際前立腺症状スコア(International Prostate Symptom Score: IPSS)とQOLスコア(IPSS-QOL)を用いる。合計点により軽症0-7点、中等症8-19点、重症20-35点に分類する。QOLスコアは現在の排尿状態に対する自身の満足度を示す指標で軽症0-1点、中等症2-4点、重症5-6点に区分する。

尿流測定

排尿状態の客観的・定量的な評価に有用である。下部尿路閉塞では尿流量(単位時間あたりの排尿量)の低下、排尿時間の延長、排尿途絶などがみられる。最大尿流量を用いて、軽症15ml/sec以上、中等症5ml/sec以上、重症5ml/sec未満に区分する。

残尿測定

残尿とは排尿直後に膀胱内に残存する尿のことをいう。残尿量は排尿直後にカテーテルによる導尿または超音波検査で計測する。導尿は正確に残尿量を測定できるが、苦痛や尿道損傷、尿路感染症などのリスクを伴うため、超音波による測定が推奨されている。

超音波残尿量測定法は膀胱を楕円体に仮定して、3次元方向の径を測定し近似する(残尿量=左右径×上下径×前後径/2)。軽症50ml未満、中等症100ml未満、重症100ml以上に区分する。

超音波検査

前立腺の超音波検査は経腹壁的走査または経直腸的走査で行う。経直腸的走査は高周波プローブにより前立腺を明瞭に描出でき、より詳細な内部構造の観察が可能となる。

前立腺体積の測定は3次元方向の径を測定し近似する(前立腺体積=左右径×上下径×前後径/2)。軽症20ml未満、中等症50ml未満、重症50ml以上に分類する。

経腹的走査

経直腸的走査

領域別重症度判定基準

IPSSによる症状、QOLスコア、最大尿流量と残尿量を用いた機能、前立腺体積を用いた形態の4項目で判定する。

排尿記録

排尿の度に尿を計量カップで計測し、その時刻と排尿量を24時間記録する。睡眠中の排尿回数や尿量(夜間尿量)も知ることができる。特に、頻尿、夜間頻尿を有する際には有用であり、一回排尿量の減少か尿量の増加か、その両方なのかの診断に役立つ。

治療

薬物療法

α1-アドレナリン受容体遮断薬(タムスロシン、ナフトピジル、シロドシン)

前立腺と膀胱頸部の平滑筋緊張に関係するα1受容体を阻害して、前立腺部の閉塞を減少させる。

5α還元酵素阻害薬(デュタステリド)

テストステロンは前立腺細胞中の5α還元酵素によって活性型テストステロンであるデヒドロテストステロン(DHT)に変換される。5α還元酵素阻害薬は前立腺組織内のDHTを抑制して前立腺を縮小させる。

ホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害薬(タダラフィル)

一酸化窒素(NO)は細胞内のcGMP産生を促進して前立腺や尿道平滑筋弛緩を促す。PDE5阻害薬はcGMPの分解を阻害することで平滑筋を弛緩させる。

手術療法

経尿道的前立腺切除術

最も広く行われている標準術式である。経尿道的に挿入した内視鏡下に、切除ループに通じた高周波電流で前立腺腺腫を切除し、回収する。治療効果は長期にわたり維持される。

ホルミニウムレーザーを用いた前立腺核出術(HoLEP)、レーザー光選択的前立腺蒸散術(PVP)などの手術方法もある。