心不全

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心不全とは

心不全は特定の心疾患に対する病名ではなく、一定の状態を表す病態名です。よって様々な病気が心不全の原因になります。従来から用いられてきた心不全の定義は非常に難解でした。しかし2017年に日本循環器学会と日本心不全学会が心不全の分かりやすい定義を新たに発表しました。それが、「心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」です。

日本では人口の高齢化に伴い、心不全の患者さまが急増しています。2010年に100万人を突破し、2035年まで増え続けると予想されています。本邦では心疾患ががんに次いで2番目に多い死亡原因で、心疾患の内訳では心不全が最多の死因です。また心不全は入院治療などで状態が改善して退院しても、再発して再び入院を要する率が高いことも知られています。このように心不全に対する対策が喫緊の課題であることは改めて述べるまでもありません。

症状

心不全には急性心不全と慢性心不全、左心不全と右心不全、うっ血性心不全と低心拍出性心不全など様々な病態が存在します。よって自覚症状も各病態によって大きく異なります。例えば急性心不全であれば症状は明瞭で重篤ですが、慢性心不全では自覚症状が比較的軽いことも少なくありません。うっ血性の左心不全の代表的な症状は呼吸困難感や息切れ、頻呼吸などですが、右心不全では食欲の低下や腹満のはり(腹部膨満感)、みぞおち(心窩部)の不快感などが中心になります。一方、低心拍出性心不全の心不全では倦怠感や手足の冷感、不穏、意識障害などが出現します。

原因

心不全の原因疾患は多岐にわたり、ほとんどすべての心臓の病気が心不全の原因になります。代表的な心疾患は虚血性心疾患(心筋梗塞および狭心症)や弁膜症、高血圧、心筋症、不整脈などです。心筋梗塞は心臓を取り囲んでいる血管(冠動脈)が突然、詰まってしまう病気です。狭心症とは、冠動脈が狭くなり、心臓の筋肉(心筋)に供給される酸素が不足するため、胸の圧迫感や不快感が生じる病気です。また心臓には血液の流れを調整するため、心臓の動きに合わせて開閉する構造物(弁)があります。その弁に障害が起きて本来の役割を果たせなくなった状態が弁膜症です。一方、心臓以外の病気、例えば甲状腺疾患やビタミン不足なども心不全の原因になることがあるため注意が必要です。

検査・診断

自覚症状から心不全が疑われる場合は、既往歴や家族歴、身体所見、心電図、胸部X線を確認します。特に身体所見は非常に重要で、眼の周囲のむくみ(浮腫)、口唇や爪床の青紫変化(チアノーゼ)、頸部の拍動(頸静脈拍動の上縁上昇)、胸の中央の拍動(傍胸骨拍動)、左胸下方の拍動(心尖の抬起性拍動や外側下方偏位)、心音や肺音の異常(ギャロップやII音肺動脈成分の亢進、ラ音)、肝臓の腫大、下腿の浮腫などが知られています。続いて採血でBNPビーエヌピーあるいはN末端プロBNP(NT-proBNP エヌティープロビーエヌピー)と呼ばれる心臓のマーカーを調べます。心不全であれば通常、これらの値が基準値を大きく上回ります。
その後に心エコー図と呼ばれる超音波を用いた検査を行い、心不全の原因となる基礎疾患の同定やその重症度判定などを行います。さらに必要に応じて様々な画像検査(CT、MRI、核医学検査、PET、心臓カテーテル法など)を行います。自覚症状と各種検査所見に乖離がある場合は、運動あるいは薬剤による負荷を追加することもあります。これらの結果を総合的に判断して心不全の診断を行います。

種類

心不全はその発症と進展から4つのステージに分類できます。

ステージA

無症状で心不全の原因となる心疾患はありませんが、心疾患を生じる危険因子がある状態です。ここでは心疾患の発症予防が重要です。

ステージB

心不全の症状はありませんが、心不全を将来生じえる心疾患がすでに存在している状態です。ここでは心疾患の進行予防と心不全の発症予防が大切です。

ステージC

心疾患があり心不全の症状がある状態です(心不全を発症して治療で改善した状態も含みます)。ここでは自覚症状を軽減して、今後の経過(予後)を改善することが目標です。

ステージD

いろいろな治療に反応がない心不全の最終段階です。基本的にはステージCと同様ですが、終末期心不全に対する緩和療法なども考慮します。

治療

心不全の経過は多くの場合、慢性かつ進行性です。例えばステージBの状態から急性心不全として発症し、その後にステージCに移行します。よって各ステージの治療目標はステージの進行を抑制することになります。心不全患者のうっ血に基づく浮腫や労作時の息切れを軽減するためにもっとも有効な薬剤は利尿薬です。交感神経系やレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の賦活化を抑えるため、β遮断薬やアンジオテンシン変換酵素(ACE エース)阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB エーアールビー)、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA エムアールエー)なども追加します。最近では、糖尿病に対して開発されたナトリウム-グルコース共輸送体-2(SGLT2 エスジーエルツー)阻害薬が心不全加療にも有用であることが判明したため広く用いられるようになりました。

心不全の原因疾患に応じた治療も重要です。虚血性心疾患では心臓周囲の動脈(冠動脈)のカテーテル治療や外科的な冠動脈バイパス術を行うことがあります。弁膜症ではカテーテルを用いて人工弁を植込む治療(TAVI タビなど)や外科的に弁を取り換えることがあります。不整脈による心不全では薬剤や電気ショック(カルディ―オバージョン)による不整脈の停止を試みることがあります。またカテーテルで不整脈の原因となっている異常な電気興奮の発生箇所を焼き切る治療(アブレーション)を行うこともあります。より重症例では、心臓再同期療法や両室ペーシング機能付き植込み型除細動器を用います。

治療後の注意

心不全は治療によって自覚症状が消失しても、様々な原因で再発することがあります。代表的な増悪因子には、血圧上昇や感染症、過度のストレス、過労、塩分の過剰摂取、定期服薬の遵守ができていない状態(薬剤アドヒアランス不良)、不整脈(頻脈性あるいは徐脈性)などがあります。当院では医師や看護師、理学療法士、薬剤師、管理栄養士、医療ソーシャルワーカーなどからなる心不全チームがあり、個々の患者さまの病態に応じた個別対応を行っています。

心不全で入院した場合は早期から心臓リハビリテーションプログラムを導入します。退院後も可能な限り外来で心臓リハビリテーションを継続して、再発の予防を目指しています。また心不全の治療は病院と診療所(かかりつけ医)との連携が極めて重要です。大阪では大阪心不全地域医療連携の会が発足して、統一したプロトコールで業務の標準化と効率化を目指す動きがあります。当院も同会に参加して、入院から退院、そしてかかりつけ医での継続加療がスムーズに行えるようなシステムを構築しています。

心不全チームによるカンファレンス

心臓リハビリテーション室

心臓リハビリテーションチーム

実績

当院では1年間に200名ほどの患者さまが心不全のため入院されています。その多くが緊急入院であり、ショック状態で救急室に搬入される方も少なくありません。当科では迅速な診断と適切な治療を常に心がけており、結果として多くの患者さまに安定した状態で退院していただいております。しかし患者さまの平均年齢は80歳前後と高齢で、退院後も1年以内の再発が10~20%で推移しています。ガイドラインに基づく標準的な治療に加えて、心不全チームよる個々の患者さまに合わせた個別化医療(テーラーメイド治療)、外来での心臓リハビリテーションプログラムの継続など、心不全医療の質のさらなる向上を目指しています。