肝硬変
概要
何らかの原因で肝臓に長期にわたり炎症が起こり、肝細胞の破壊(壊死)と再生が繰り返されると、徐々に肝臓が硬くなり、肝硬変と言われる状態になります。肝硬変の患者さまの肝臓の細胞を取り出して顕微鏡で見てみると、肝細胞のような機能を持たない大量の瘢痕組織が形成される、肝線維化と言われる変化が見られます。
正常肝
肝硬変
肝硬変の分類と自覚症状
肝硬変の程度により、代償性と非代償性の2つに分類されます。
代償性肝硬変:肝機能が保たれている状態で特異的な症状はありません。
非代償性肝硬変:肝機能がさらに低下している状態で(下記Child-Pugh 7点(B)以上)、
- 全身倦怠感、易疲労性、食欲不振、腹部膨満感
- 肝性脳症による見当識障害、意識障害、精神症状
- 腹水、浮腫
- 消化管出血などの門脈圧亢進症(肝臓が硬くなり、肝臓に向かう門脈という血管の圧力が異常に高くなる状態)に伴う消化管症状などがあります。
肝機能の評価方法:Child-Pugh分類
肝機能がどの程度保たれているかは、血液検査、腹水の状態、肝性脳症の程度に応じて点数化し、A、B、Cの3つに分類します。A→B→Cとすすむにつれて肝機能は低下します。この基準は肝がんの治療方法を選択する場合にも参考にします。
評点 | 1点 | 2点 | 3点 |
---|---|---|---|
肝性脳症 | なし | 軽度(I・II) | 昏睡(III以上) |
腹水 | なし | 軽度 | 中等量以上 |
血清ビリルビン値(mg/dl) | 2.0未満 | 2.0~3.0 | 3.0超 |
血清アルブミン値(g/dl) | 3.5超 | 2.8~3.5 | 2.8未満 |
プロトロンビン時間活性値(%)または 国際標準比(INR) |
70超 1.7未満 |
40~70 1.7~2.3 |
40未満 2.3超 |
各項目を加算し、合計点で分類します
class A | 5~6点 |
---|---|
class B | 7~9点 |
class C | 10~15点 |
Pugh RN et al. Br J Surg 1973; 60: 646-649を参考に作成
肝硬変の原因
原因は多い順に、C型肝炎、アルコール性、B型肝炎、MASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)となっています。C型肝炎は治療法の進歩に伴い減少傾向にあり、アルコール性やNASHの比率が増加しています。
肝硬変の診断
スコアリングシステムや画像検査の結果から総合的に診断する必要があります。
1. スコアリングシステム
年齢
性別
血液検査:線維化マーカー上昇(Ⅳ型コラーゲン7S、ヒアルロン酸、M2BPGi)、血小板数、AST、ALT、アルブミン(ALB)、プロトロンビン(PT)、ビリルビン(Tbil)
などを用います。
2. 画像検査
超音波検査(肝硬度測定)、CT、MRIなどでの肝臓の形態変化の有無
※当院の超音波検査は、検査による見落としを減らすために、1人の患者さまに対して、2人の検査者が交代で検査を行います。
超音波検査室のメンバー(2021年5月時点)
CT、エコー検査で肝臓の凹凸が目立ち、肝臓が小さくなっています。
肝硬変の合併症
- 肝細胞壊死、再生を繰り返し、肝がんを発生する可能性が高くなります。
- 門脈圧亢進症がすすむと、腹水貯留や特発性細菌性腹膜炎(腹水の中に細菌感染を起こす状態)、食道・胃静脈瘤(破裂すると大量に出血します)、腎障害、肺障害などが起こります
食道静脈瘤
食道静脈瘤破裂(出血)
- 肝臓で作られる凝固因子(血液を固める成分)の産生が低下したり血小板が減少することで、出血しやすくなります。
- 肝臓で除去されるはずのアンモニアなどの有害物質が肝臓で分解されなくなり、血液中に溜まることで、肝性脳症と呼ばれる意識障害や異常行動が現れます。
- 筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下することで、サルコペニア(全身の筋肉量が減少し、筋力や運動機能の低下が進行する状態)になります。
- インスリン抵抗性(血糖値が上がりやすくなる)がすすむと、糖尿病になります。
肝硬変の治療
原因に対する治療
- B型肝炎:B型肝炎のウイルス量(HBV-DNA量)が多いと、肝硬変になり肝がんを発生するリスクが高くなります。核酸アナログ製剤(エンテカビル、テノホビルなど)を内服していただき、ウイルス量を減らす治療を行います。
- C型肝炎:C型肝炎ウイルスに感染し、肝臓の炎症や線維化が持続すると、慢性肝炎や肝硬変になり肝がんを発生するリスクが高くなります。直接作用型抗ウイルス薬(DAAs:Direct Acting Antivirals)による治療を行うと、C型肝炎ウイルスが消失する可能性がきわめて高いため、治療適応のある患者さまに対してお勧めしています。
- アルコール性肝硬変:禁酒によって肝臓の線維化が改善し、予後が改善すると言われているため、禁酒が必要です。
- 代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH):肝硬変の線維化に確実に有効とされる薬はありませんが、状態に応じた食事療法、運動療法や内服薬による治療を行います。
- 自己免疫性肝炎:副腎皮質ステロイドが有効とされていますが、副作用もあるため、全身状態をみて治療を検討します。
- 原発性胆汁性胆管炎:ウルソデオキシコール酸という薬が有効とされています。
肝硬変の合併症の治療
- 肝がん:肝機能とがんの状態に応じて、適切な治療を行います。(「肝臓がんの治療」の項目を参照)
- 食道・胃静脈瘤:出血している場合や今後出血する危険性が高い場合、内視鏡治療やカテーテル治療を行います。
- 食道静脈瘤結紮術(EVL):内視鏡(胃カメラ)を挿入し、出血している静脈瘤の根元を輪ゴムで縛り、血流を遮断することで止血を行います。
- 食道静脈瘤硬化療法(EIS):透視室(レントゲン)で治療を行います。内視鏡(胃カメラ)を挿入し、食道静脈瘤に針を刺して硬化剤を注入し血栓化することで静脈瘤を固めてしまい、出血を予防する治療方法です。週1回程度、数回に分けて行います。
食道静脈瘤に針を刺します。
硬化剤を注入すると静脈瘤が青く変色します。
- バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(BRTO):血管造影室で治療を行います。局所麻酔を行い、大腿静脈(鼠径部)を穿刺し、カテーテルを挿入します。胃静脈瘤の付近までカテーテルをすすめ、硬化剤を注入し血栓化することで静脈瘤を固めてしまい、出血を予防する治療方法です。
硬化剤を注入します。
治療前
治療後
- 食道静脈瘤結紮術(EVL):内視鏡(胃カメラ)を挿入し、出血している静脈瘤の根元を輪ゴムで縛り、血流を遮断することで止血を行います。
- 腹水貯留:食欲がなくならないように、軽度の塩分制限(5~7g/日)を行います。利尿剤で尿量を増やすことで腹水を減らします。利尿剤による腎障害や電解質異常(血液中のナトリウムやカリウムのバランス)に注意が必要なため、血液検査を行いながら利尿剤の量の調整を行います。改善がなければ、アルブミン点滴の併用や腹水穿刺排液を行うこともあります。
- 特発性細菌性腹膜炎(腹水の中に細菌感染を起こす状態):感染に伴い急激に状態が悪くなることがあるため、入院していただき腹水穿刺排液や抗菌薬を投与します。
- 肝性脳症:食事中の蛋白質や、消化管に分泌される尿素が、腸内細菌により分解され、アンモニアが産生されるため、蛋白質の過剰摂取、便秘、下痢、脱水、感染症に注意する必要があります。また、利尿剤、睡眠剤の過剰投与を避ける必要があります。必要に応じてアンモニアを下げるためのお薬を使用します。
- 糖尿病:インスリンを含めた糖尿病治療が必要になります。
栄養療法・運動療法(サルコペニア対策)
肥満や糖尿病の合併が肝がんの発生率を高めるため、栄養療法、運動療法が推奨されています。肝硬変におけるサルコペニアの頻度は約40~70%と高く、低栄養状態やサルコペニアは余命に影響します。肝臓におけるグリコーゲン貯蔵低下により、骨格筋から分枝鎖アミノ酸(BCAA)を含むアミノ酸やグリコーゲンが供給され、筋萎縮が進行するとされています。
- 肝硬変の患者さまは、夜間から早朝にかけで飢餓状態となるため、late evening snack(LES)と言われる就寝前の食事や分枝鎖アミノ酸(BCAA)製剤などで、200kcal相当を摂取することが有効とされていますが、糖尿病の患者さまでは高血糖に注意が必要です。当院では、適切な食事内容やLESに関する工夫などについて、栄養指導を受けていただくことが可能です。
- 筋萎縮予防のため適度な運動を行う必要があり、有酸素運動が有効とされています。
- 最大強度の50~60%程度
- 普通に会話できる程度
- 充実感があり、少し汗をかく程度
- 1日30分、週3回以上行う(散歩など)
- 負荷が強い筋力運動は避ける
当院では、年2回肝臓病教室を開催しています。食事療法、運動療法について、管理栄養士、理学療法士から説明を受けていただくことができます。
日常生活(家での生活)における注意事項
代償性肝硬変(肝機能が保たれている状態)の患者さまの場合、生活制限は不要です。規則正しい生活を心がけ、便秘、過度の疲労を避ける必要はあります。非代償性肝硬変(肝障害が進み、肝機能が低下している状態)の患者さまの場合、症状に応じて安静が必要になります。特に夏場における海産魚介類の生食は食中毒を避けるうえで控える必要があります。肝硬変と診断されれば基本的にアルコールは避けていただきます。