肝臓がん
肝臓がんとは
肝臓がんは肝臓の中に発生するがんです。代表的ながんは以下のように分類され、治療法が異なります。
- 肝細胞がん:肝細胞ががんになる
- 肝内胆管がん(胆管細胞がん):胆管細胞ががんになる
- 混合型肝がん:肝細胞がんと肝内胆管がんが混ざったがん
- 転移性肝がん:他の臓器のがんが肝臓に転移する
これらのうち、「肝細胞がん」が最も多いです。
肝細胞がんの原因
C型肝炎、B型肝炎、自己免疫、アルコール、肥満、糖尿病などが原因になります。肝臓の炎症が長期間持続し、壊死、再生を繰り返すと慢性肝炎、肝硬変になります。そのときに遺伝子の変異が起こり、がんを発生すると考えられています。高齢者や男性に多い傾向にあります。
肝細胞がんの症状
肝臓の中にがんがとどまっている場合、自覚症状はほとんどありませんが、がんが進行すると腹部膨満感、しこり、痛みを感じることがあります。また肺や骨に転移し進行すると、息苦しさや痛みを伴います。
肝細胞がん早期発見のために行う検査
肝細胞がんを発生する可能性がある患者さまは、早期発見を行うために定期検査をおすすめしています。検査の頻度は肝障害の程度によって異なりますが、肝硬変や肝硬変に近い状態の患者さまや肝がんの治療経験がある患者さまは、発がんリスクが高いため、3~4ヵ月ごとの画像検査や腫瘍マーカー検査(AFP、PIVKA-II)が望ましいです。
画像検査の実際
超音波検査(エコー)
簡便な検査で被曝の心配がなく、腎機能が悪くても行えるため、最も行うことが多い検査です。肝硬変の患者さまは肝臓の形が変形しており、超音波で病気がわかりにくい場合もあるため、見落としに注意する必要があります。
造影剤を併用したり、CTやMRI検査の画像を同時に表示し比較しながら検査を行う場合もあります。
※当院の超音波検査は、検査による見落としを減らすために、1人の患者さまに対して、2人の検査者が交代で検査を行っています。
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CT検査
通常は造影剤の注射を行ってから撮影します。超音波で見えにくい場所も見えます。造影剤は、腎機能が悪い患者さま、喘息や造影剤アレルギーのある患者さまには使用できません。
MRI検査
通常は造影剤の注射を行ってから撮影します。超音波で見えにくい場所も見え、CTよりもさらに詳しい画像検査になります。造影剤は、腎機能が悪い患者さま、喘息や造影剤アレルギーのある患者さまには使用できません。体内に金属やペースメーカーの入っている患者さま、刺青のある患者さまには使用できない場合があります。
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画像検査の一般的な順番
日本肝臓学会編肝がん診療ガイドラインより作成
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がんの性質によって白く見えたり黒く見えたりします
肝細胞がん(矢印先端)の超音波検査
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造影剤で白く造影されています
肝細胞がん(矢印先端)の造影CT検査
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早期相
(白く造影されています)
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後期相
(周囲の肝臓より黒くなっています)
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肝細胞相
肝細胞がん(矢印先端)の造影MRI検査
肝細胞がんの治療
肝がん診療ガイドラインに基づき治療を行います。がんのステージ(進行の程度)と肝機能(肝予備能)のバランスによって、治療方法を決定します。手術が可能であれば、肝切除が基本になりますが、肝硬変で肝機能障害が進行している場合、がんが多発している場合、心臓や肺に持病がある場合などは、手術よりも負担の少ない内科治療を選択することもあります。
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日本肝臓学会編肝がん診療ガイドラインより作成
ラジオ波焼灼療法(RFA)・マイクロ波凝固療法(MWA)
がんが比較的小さく、数が少ない場合(3cm以下、3個以下)に適応になります。超音波検査(エコー)で観察しながら局所麻酔を行い、皮膚と肝臓を通してがんに電極針を挿入し、熱を発生させることでがんを壊死させ治療します。1ヵ所のがんの焼灼時間は10分前後ですが、がんの大きさによっては複数回の穿刺、焼灼が必要な場合があります。十分に壊死させることができれば、肝切除に匹敵する治療効果があるとされています。治療後数日で退院可能です。
合併症:痛み、出血、発熱、腹膜炎、がんの破裂や散布、胆管障害、血管障害、気胸、感染症(胆管炎、膿瘍形成、敗血症など)、胸水、腹水、皮膚熱傷、消化管や胆嚢などの隣接臓器の損傷、ショックなどがありますが、重篤な合併症を起こすことは稀です。がんが完全に壊死していない場合、同じ場所に再発する可能性があるため、十分な焼灼範囲が得られるように注意して治療を行う必要があります。
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がんにラジオ波の針を刺しています
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がんを焼灼し白くなっています
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治療前
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治療後
肝動脈化学塞栓療法(TACE)
がんが多発している場合や、がんが大きい場合に適応になります。血管造影室で治療を行います。皮膚に局所麻酔を行い、足の付け根の動脈(大腿動脈)にカテーテルを挿入します。血管を造影しながら、肝臓に分布する腹部の動脈までカテーテルを進めていきます。がんを栄養している血管にできるだけ近づき、抗がん剤や塞栓物質(詰め物)を注入します。CTを併用しながら検査を行うこともあります。
合併症:痛み、出血、皮下血腫、肝障害(肝不全を含む)、発熱、嘔気、造影剤アレルギー(ショックを含む)、感染症、血管損傷、動脈血栓・塞栓、静脈血栓・塞栓(末梢の血管が詰まり壊死したり肺塞栓などで重症化することもあります)、消化管出血(潰瘍や静脈瘤の悪化など)などが起こりえますが、重篤な合併症を起こすことは稀です。この治療のみでがんを完全に消失させることは困難なため、繰り返し治療を行ったり、ラジオ波焼灼療法や薬物療法を併用する場合もあります。
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がんを栄養する血管(矢印)
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薬剤を注入(矢印)
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治療後のCT(白い部分に薬が貯留している)
薬物療法(分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤)
ラジオ波焼灼療法や肝動脈化学塞栓療法が適応にならない進行した肝がんや、他の臓器へ転移している場合などの治療法です。分子標的薬(ソラフェニブ、レンバチニブなど)や免疫チェックポイント阻害剤と分子標的薬の併用療法(アテゾリズマブ+ベバシズマブなど)があります。高血圧、腎障害、肝障害、大腸炎、間質性肺炎、アレルギ-、内分泌機能障害、1型糖尿病、血栓塞栓症などさまざまな副作用があるため、各種認定資格を持っている薬剤師、看護師、作業療法士、栄養士らと連携をとりながら治療を行っています。
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レンバチニブ開始前
(白い部分:血流の多いがん)
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レンバチニブ開始8ヵ月後
(がんの血流が乏しくなり、黒くなっています)
手術療法
日本肝胆膵外科学会高度技能指導医を中心として手術を行っています。
手術(切除術)の適応
上記の肝がん診療ガイドラインに基づき、肝機能良好(Child-Pugh分類AまたはB)で、腫瘍数が3個以内の場合に手術の適応となります。しかし残った肝臓が十分に機能しなければ術後肝不全といった重篤な事態に陥りますので、予定肝切除量と肝機能(一般肝機能検査とICG15分停滞率)を十分検討し手術の可否や術式を決定しています。
術式
腫瘍の大きさや存在部位や肝機能によって様々で、部分切除、系統的切除(亜区域切除や区域切除や片葉切除)を選択しています。また安全に施行できる症例に対しては腹腔鏡下肝切除を行うこともあります。
片葉切除術:肝臓は2つの葉に分類され、腫瘍が存在する右葉もしくは左葉を切除します。
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画像が表示されます
区域切除術:肝臓は4つの区域に分類され、腫瘍の存在する区域を切除します。
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亜区域切除術:肝臓は8つの亜区域に分類され、腫瘍の存在する亜区域を切除します。
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部分切除術:腫瘍をくりぬく形で切除します。
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術後合併症
- 出血:術中のみならず術後出血をきたすこともあり得ます。頻度は非常に低いですが、術後出血量が多い場合は再手術を行うこともあります。
- 肝不全:残った肝臓が十分機能しなくなる状態です。肝硬変の場合には不可逆的になり致命的になることもあります。適切な術式選択・手術・術後管理を行う必要があります。
- 胆汁漏:肝臓の切離面に露出した胆管(胆汁の流れ道)に穴が開き、胆汁が漏出することです。手術中に留置した柔らかいチューブ(ドレーン)の性状でわかることもあれば、CTで判明することもあります。漏れた胆汁を適切に体外へ排出(ドレナージ)することで治療をします。
- 胸水/腹水:一時的に胸水や腹水が増えることがあります。量が多ければ利尿剤の使用や、細いチューブを刺して液体を体外へ排出(ドレナージ)することがあります。
- 感染性合併症:創感染(傷口の化膿)、腹腔内膿瘍(おなかの中に膿が溜まる)、肺炎などがあります。
放射線療法
早期がんで切除術やラジオ波焼灼の適応とならないような場合、進行がんで門脈浸潤がみられた場合などに寡分割照射や体幹部定位放射線治療を考慮します。他の治療が不十分であった場合に救済放射線療法を考慮します。
当院の診療実績(2022年)
- ラジオ波焼灼療法・マイクロ波凝固療法:15件
- 肝動脈化学塞栓療法:5件
- 薬物療法(分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害薬)の新規導入:14件
- 肝切除術:16件(うち腹腔鏡 1件)
当院ではいずれの治療も行うことができます。治療終了後も、再発の可能性があるため、外来で継続的に画像検査による経過観察が必要です。医師、看護師、薬剤師、検査技師、臨床工学技士などの多職種が連携しながら、治療にあたっています。