口腔がん

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口腔がんとは

「口腔がん」とは舌にできる舌がん、歯肉にできる歯肉がん、口底にできる口底がん、頬粘膜にできる頬粘膜がん、そして口蓋(上あご)にできる口蓋がんを総称したものです。口腔がんの発生率は身体に発生するがん全体の2%程度で比較的珍しいがんと言えます。しかし高齢化に伴いその発生率は上がってきています。口腔がんの中でも舌がんは数年前に有名人が罹患し手術をしたことで一躍、注目されるがんとなりました。実際に舌がんの発生率は口腔がんのうちの60%以上を占めており、名実とも「有名な口腔がん」であります。また口腔がんは組織学的に「扁平上皮がん」が90%以上を占めています(食道がんもこの扁平上皮がんが多いです)。

舌がん

口腔がん全体の60%以上を占めています。舌の縁に発生する事が多いです。

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歯肉がん

口腔がん全体の20%ほどを占めています。歯の有無に関わらず歯茎に発生します。初期のものは歯肉炎と見分けがつきません。

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口底がん

口腔がん全体の10%弱を占めています。普段は舌で隠れている場所なので発見しにくいです。

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頬粘膜がん

口腔がん全体の10%弱を占めています。よく噛んでしまう場所に発生しやすいです。

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口蓋がん

口腔がん全体の2%程度を占めています。

口腔がんの原因

他部位に発生するがんと同じで、アルコールやタバコは原因となります。それ以外に口腔特有の原因があります。それは不適合な義歯や鋭く尖った歯、そして虫歯による口腔粘膜への刺激です。また重度歯周炎よる歯肉への慢性刺激も原因となります。

口腔がんは痛いの?

初期の口腔がんでは痛みを感じる事は少ないです。違和感程度、もしくは自覚症状がないものがほとんどです(なかには初期でも痛みを生じる事があります)。ですから初期の口腔がんは歯科医院で歯科治療中や歯科検診で偶然に発見される例が半数以上です。進行すると痛みが出現し、舌が動かしにくい、口が開けにくい等の運動障害が出現します。

口腔がんの見た目は?

初期の口腔がんは、見た目に口内炎のように出現することが多いです。出現から1〜2週間しても治らない口内炎は初期がんの可能性があります。また進行すると周囲に膨らみのある潰瘍になったり、大きな穴が開いたり、表面が凸凹した腫れになります。

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口腔がんの診断:生検術

見た目だけではがんの診断はできません。確定診断を得るためには局所麻酔を行い、病変の一部をメスで切り取り採取します。採取した組織の構造を顕微鏡で観察してがんか否かが診断されます。この一連の操作を「生検術」と言います。

口腔がんの転移

口腔がんも肺がん、胃がんや食道がんなどと同様に全身に転移します。しかし、最初に転移する場所は決まっています。それは顎下部、頚部のリンパ節です。転移したリンパ節は大きく腫れてきます。ですから口腔がんの転移が起こると顎下部、頸部に「しこり」のように硬い塊を触れます。顎下部、頸部リンパ節に転移すると次は全身へ転移が起こります(遠隔転移といいます)。全身への転移での好発部位は肺です。

口腔がんの頸部リンパ節転移

治療までの流れ

まずは生検術で診断を行います。口腔がんと診断されたらCTやMRIで進行の程度を診断します。また顎下部や頸部リンパ節以外の部位への転移(遠隔転移といいます)の有無を確認するためPET検査も行います。CT、MRI、PET検査の結果を元にTNM分類を行います。

原発巣(最初に口腔内にできたがん)の大きさ、深さによりT1からT4に分類され、顎下部や頸部リンパ節転移の有無と転移リンパ節の個数によりN0からN3に分類され、更に顎下部や頸部以外の部位への転移の有無によりM0とM1に分類されます。次いで、このTNM分類が決まるとステージが決まります。ステージはI〜IVまで分類されます。これらTNM分類やステージ分類は治療法の決定や、手術の方法、予後の判断に参考とされます。

舌がんのTNM分類

口腔がんの治療

初期がん、進行がんともに手術が基本です。手術は進行の程度に従い、原発巣である口腔内だけの切除で終わる場合と、顎下部や頸部へのリンパ節転移を認める場合には顎下部、頸部のリンパ節を脂肪に包んで切除摘出する「頸部郭清術」も同時に行う場合があります。また口腔内の切除範囲が広い場合には、腕や脚、腹部から組織を移植する「再建術」を同時に行います。手術後の病理検査の結果によって、術後に放射線治療や化学療法を併用する場合があります。またがんが大きく、非常に進行している場合には手術をせず放射線治療と化学療法のみを行う場合があります。

ステージによる5年生存率

治療後に5年生存している確率を指します。5年生存率は口腔がん全体で見るとステージIで90%以上、ステージIIは約70%、ステージIIIは約60%、そしてステージIVは約40%と言われています。

ステージ分類(病期分類)

手術による合併症

初期がんであれば「話す」「食べる」機能を損なわず手術が可能です。また、口腔内だけで切除できるので顔貌の変化(顔の変形)はありません。進行がんでは「話す」機能が低下しますので構音障害が出現し「舌ったらず」になり、上手く発音できない言葉が増えます。また「食べる」機能も低下しますが、リハビリや食べ物の形を変える事で口から摂取する事ができます。進行がんの中でも非常に進んだ状態であると手術後は口からの食事摂取は困難となり胃瘻からの栄養摂取になる事もあります。また顎下部、頸部リンパ節転移のある場合には頸部郭清術を行うため顎の下、首に傷跡が残ります。歯肉がんの場合は進行すると顎の骨を広範囲に切り取る必要があり顔貌の変化(顔の変形)が見られます。

即時再建術

進行がんでは広範囲切除に伴う大きな組織欠損をおぎない、機能障害を最小限とし、顔貌の変化も最小限にするため再建術を同時に行います。再建術には前腕部(手首)や腹部、太もも、ふくらはぎから組織を取ってきて血管ごと欠損部へ移植します。

口腔がんにおける放射線治療

主に手術後に再発や転移の可能性が高い場合に放射線治療を行います。また切除不能な大きながんや再発例には放射線治療を行います。口腔や頸部に放射線が当たるので口腔粘膜炎、咽頭炎が出現します。放射線の照射範囲によっては唾液腺が機能しなくなる事があります。また顎骨が照射範囲に含まれる場合には治療から数年経過してから顎骨骨髄炎を発症する事があります。それらの有害事象を可能な限り避けるため強度変調放射線治療(IMRT)を行なっています。

口腔がんにおける化学療法(抗がん剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬)

現在は化学療法のみで口腔がんを根治する(全滅させる)ことはできません。化学療法は放射線治療と同時に併用する事が多いです。また手術後に再発を減らす目的や、手術後や放射線治療後に再発して切除不能の場合には進行を遅くするため、または症状緩和のために化学療法を用います。