骨・軟部腫瘍

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概要

骨・軟部腫瘍は骨や軟部組織(皮膚以外の筋肉、神経、血管、皮下組織など)から発生するできもの(腫瘍)で、比較的まれな病気です。専門とする整形外科医は少なく、多くの場合は専門の施設へ紹介されます。悪性腫瘍は肉腫とよばれ、転移すると命にかかわります。一方、骨の悪性腫瘍の中には、骨から発生した腫瘍ではなく、他の部位に発生したがんなどが骨に転移して大きくなっていく転移性骨腫瘍(骨転移)があります。肺がん、乳がん、前立腺がんなどは骨へ転移しやすい腫瘍です。がんの治療成績が良くなってきましたが転移性骨腫瘍患者数は増大傾向にあります。

骨・軟部腫瘍とは

骨・軟部腫瘍には良性腫瘍と悪性腫瘍があります。通常、悪性は腫瘍が早く大きくなったり、転移(他の組織で新たな腫瘍を作る)したりする特徴がありますが、良性はゆっくり年数をかけて大きくなることもあればある時期から変化がないこともあります。悪性腫瘍は肺がん、大腸がん、乳がんなどの「がん」と異なり「肉腫」と呼ばれます。また、同じ診断名でも悪性度(腫瘍の悪さの程度)が異なることがあります。さらに、良性と悪性の中間に位置する腫瘍もあり、たくさんの種類があるため最終診断がつきにくいこともあります。そのため病理診断だけでなく画像診断も重要となります。

症状

腫脹(はれ)が重要です。腫脹は腫瘍以外に打撲後の血腫や感染でも生じることがあり、腫瘍による腫脹に気づかないことも多いです。経過とともに腫脹が強くなる場合は注意が必要です。骨腫瘍では骨の外に腫瘍が広がらない限りわかりません。たまたまとったレントゲン写真で腫瘍を指摘されることもあります。痛みに関して、骨腫瘍では骨折時(病的骨折)あるいは骨折前(切迫骨折)に痛みの訴えはありますが、骨の中に腫瘍がいるだけでは痛みはないことが多いです。軟部腫瘍でも痛みは生じるわけではなく、悪性腫瘍でも痛みがないことも多くあります。腫脹や痛みは様々な原因で生じますが、けがなど思い当たる原因がなく継続や悪化する場合は早めに整形外科を受診することを検討してください。

診断方法

通常の診察(問診、視診、触診)に加え、骨腫瘍ではレントゲン写真、CT、MRI、軟部腫瘍ではMRIや超音波(エコー)検査が重要な検査となります。さらに、シンチグラフィーやPET/CT(悪性腫瘍の診断が確定した場合)で良悪性診断や全身への腫瘍の広がりを調べることがあります。血液検査に関しては「がん」では腫瘍マーカーを調べることは多いですが、肉腫では特徴的なマーカーはあまりありません。

治療

良性腫瘍では必要時に手術を行いますが経過観察する例も多くあります。悪性腫瘍は手術療法、化学療法、放射線療法があり、腫瘍の種類や進行状況により各治療を組み合わせた集学的治療を行います。小児の患者さまの化学療法は当院では行っておりませんので疑いがある場合は専門施設をご紹介させていただいております。当院では十分に治療方針をご説明させていただき各患者さまに合わせた治療を行っています。

良性骨・軟部腫瘍

以前は腫瘍に対する治療は良悪性を問わず外科的治療がすべてでした。ところが、最近の画像診断、治療の進歩により良性腫瘍では患者さまと相談し手術をせず経過観察する例も多くあります。良性腫瘍では腫瘍を取り除く手術が基本となります。さらに、骨腫瘍では取り除いた欠損部を埋める必要がありますが、現在は自分の骨でなく人工骨(主としてカルシウムとリンの混合物)で対応しています。

  • 主な良性骨腫瘍:内軟骨腫、骨軟骨腫(外骨腫)、骨のう腫(単発性、動脈瘤様)、非骨化性線維腫、骨巨細胞腫など
  • 主な良性軟部腫瘍:脂肪腫、ガングリオン、類表皮嚢腫(粉瘤・アテローム)、神経鞘腫、血管腫、腱滑膜巨細胞腫など
中指中節骨(内軟骨腫)

腫瘍切除(掻爬)+人工骨充填術手術5か月で人工骨が自分の骨に置換されはじめている

悪性骨・軟部腫瘍

悪性腫瘍に対する手術では広範囲切除(腫瘍を正常組織で包むようにして取り除く)が基本的な治療となります。切除した欠損部には症例に応じて様々な再建術を行うことで機能温存を図ります。また、化学療法、放射線療法を症例に応じて行うことで切除範囲の縮小や全身への転移を抑え生命予後を向上させることが可能となってきています。さらに、最近では緩和的治療の目的でこれらの治療法を組み合わせて行うこともあります。切除不能な腫瘍では粒子線治療が有用な治療法となることもあり、専門施設への紹介を行っています。

  • 主な悪性骨腫瘍:骨肉腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫など
  • 主な悪性軟部腫瘍:脂肪肉腫、滑膜肉腫、平滑筋肉腫、未分化多形肉腫など
大腿悪性軟部腫瘍(未分化多形性肉腫)

化学療法により腫瘍は縮小している

転移性骨腫瘍(骨転移)

多くは原発腫瘍(もともとあるがんなどの腫瘍)の全身検査で発見されます。一方、痛みの部位を詳しく調べたときに骨病変が発見される場合もあります。中には骨の病変が転移性骨腫瘍であることがまずわかり、その後原発の悪性腫瘍(がん) が発見されることもあります。転移性骨腫瘍は原発腫瘍の種類により骨病変の変化が異なります。溶骨性(骨が弱くなる)変化を生じている場合は骨折を生じる危険があり、骨折して初めてわかることもあります。

転移性骨腫瘍は原発腫瘍に対しての薬物治療以外には放射線治療や手術治療が考慮されます。転移性骨腫瘍の部位、原発腫瘍の治療状況、体の状態、麻痺や骨折の有無などにより治療方法は異なります。当院では上記判断のもと機能回復、維持を目的に転移性骨腫瘍に対しても積極的に手術を行っています。また、転移性骨腫瘍を伴った悪性腫瘍患者さまに対しては麻痺や骨折の予防、運動機能の維持・回復指導を目的にリハビリテーションの介入を行っています。

腎細胞がん上腕骨転移

広範囲切除(上腕骨全摘出術)+全人工上腕骨・肘関節置換術

転移性骨腫瘍(骨転移)のリハビリテーション

目的、目標

骨転移が発生すると痛みがでるだけでなく、病的骨折や麻痺などの骨関連事象が生じることがあります。このような状態になると動くことが困難となり通常の日常生活が送れなくなります。また、治療中の患者さまは治療の継続ができなくなることもあります。一方で、骨関連事象を恐れるあまり動かないでいると廃用が進み体力を失ってしまいます。当院では骨転移患者さまの日常生活の維持・向上、治療の継続を行っていただくために積極的にリハビリテーションの介入を行っています。各々の患者さまの病状を把握した上で患者さまのご希望をうかがいながら体力の維持、骨折や麻痺の予防を行っています。

リハビリテーションの内容

「骨転移があるのにリハビリテーションをして大丈夫ですか?」という質問があります。当院では、骨転移のある患者さまのリハビリテーションをする際には、注意点や骨折のリスクを整形外科医と相談した上で実施しております。骨折や麻痺が生じる可能性が低い場合は通常のリハビリテーションを、可能性が高い場合は骨転移部位への負担の少ない動作方法の指導や、日常生活動作の維持・向上のために筋力強化練習などのリハビリテーションを積極的に行っております。

関節可動域訓練

歩行訓練