頭痛疾患(片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛、薬物過使用頭痛)

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1. 頭痛の分類

頭痛とは、頭部・後頚部・眼の奥の痛みのことをいい、わが国では人口の約40%が何らかの頭痛を経験しているといわれています。頭痛を生じる病気のことを、頭痛性疾患といいます。頭痛性疾患の多くは、比較的軽度の頭痛である「緊張型頭痛」であることが多いのですが、日常生活に支障をきたす強い頭痛が繰り返しおきる「片頭痛」や「薬物過使用による頭痛」、あるいは命にかかわる「クモ膜下出血による頭痛」や「髄膜炎による頭痛」など、医療機関を受診した方がよい頭痛も少なくありません。

頭痛性疾患のグローバルスタンダードである「国際頭痛分類」では、頭痛性疾患は次の3群に分類されます。(1)くりかえす頭痛が特徴的な「1次性頭痛」、(2)他に原因があって頭痛が生じる「2次性頭痛」、そして(3)三叉神経痛・後頭神経痛などの「頭頚部有痛性ニューロパチー」の3つです。ある報告によれば、頭痛の約8割は「1次性頭痛」であると報告されています。一次性頭痛には、この後詳述する「緊張型頭痛」「片頭痛」「群発頭痛」などがあります。

2. 頭痛性疾患の診断と「頭痛外来」のご案内

頭痛性疾患はどのように診断できるのか、みなさんはご存知でしょうか?

患者さまの多くが「CTやMRIなど、脳の画像検査をしてもらえば、頭痛の診断はつくだろう」と思われて来院されます。ですが、残念ながら画像検査で診断がつくケースはほとんどありません。なぜなら、画像検査で診断がつく頭痛性疾患は「2次性頭痛」の一部のみあり、全ての「1次性頭痛(頭痛患者の約8割)」「頭頚部有痛性ニューロパチー」多くの「2次性頭痛」(合わせると頭痛患者の9割以上になります)では、画像検査では診断がつかないのです。ですから、頭痛性疾患の診断は「問診(患者さまからじっくりお話をうかがうこと)」「身体診察」がとても重要になります。現代医療では、医療機器の発達によって微細な診断は可能になりましたが、その一方で、(残念なことですが医療関係者の間でも)「問診」「身体診察」の技術が軽視されがちです。そのため、検査機器による診断に偏重した医療を展開されている施設で、逆に頭痛性疾患の診断が難しくなる場合があるのです。

ここに、頭痛診療に特化した「頭痛外来」が存在する意味があります。松下記念病院の「頭痛外来」では、頭痛学会専門医が「問診」と「身体診察」を大切にした診療をモットーに診療を行っております。「診断がつかなかった頭痛」「だんだん強くなってくる頭痛」「薬がどんどん増えてくる頭痛」で悩んでおられる患者さまは、ぜひ一度、「頭痛外来」を受診することをお考えください。受診の際は、かかりつけのクリニックからのご紹介状があると、幾分安価に受診いただけます(紹介状がない場合、厚生労働省の指導により「選定療養費」を支払っていただく必要があります)。

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3. 片頭痛

半日から数日持続する中等度から重度の頭痛が、ひと月に数回くりかえし生じるのが、片頭痛の特徴です。「左右どちらか片側に」「ズキンズキンと拍動するような頭痛」が出現するのが典型的ですが、「両側に」おきることもよくありますし、「締めつけるような頭痛」のこともありますので、「片側性」「拍動性」だけで、片頭痛かどうかきめつけることはできません。一方、「光過敏」「音過敏」「吐き気」などは、片頭痛の随伴症状として特徴的であり、「片頭痛」は一種の「脳の過敏性が高まった状態」とも言えます。特に、吐き気を伴う頭痛や、仕事を休みたくなるほどの頭痛を繰り返し生じる場合は「片頭痛」が疑われます。また、片頭痛の2-3割では、頭痛発作の前に「目の前がキラキラして見えにくくなる(閃輝暗点)」「ギザギザした歯車のようなものが見える」など「視覚性前兆」といわれる症状が、数十分ほどみられることがあります。

わが国では、840万人以上の方が片頭痛をもっていると推定されています。片頭痛は労働者世代に多くみられ、最近の研究では、片頭痛の「疾患負荷(疾患による経済的・身体的損失)」は、神経疾患のなかでは脳卒中についで第2位と極めて高い疾患であることが明らかになっています。片頭痛をしっかりと治療することが、患者さまの健康にとっても社会経済的にも重要であることが、再認識されてきています。

片頭痛の治療は「急性期治療」と「予防治療」の2本立てになります。頭痛がおきた時に治療するのが「急性期治療」であり、片頭痛の回数を減らす、あるいは発作時の頭痛を軽くするのが「予防治療」の目的になります。

「急性期治療」についてお話します。頭痛が軽い場合は、市販の頭痛薬の内服でも十分対応可能なことがあります。月1-2回で、市販薬が十分効果がある場合は、その対応で構わないかもしれません。しかし、市販の頭痛薬には、薬物乱用になりやすい成分が入っている製品もありますので、頭痛薬の使用回数がどんどん増えてくる場合は、医療機関に受診して医師から頭痛薬を処方してもらう方が安全です。医療機関で処方される「急性期治療薬」には、「アセトアミノフェン」「非ステロイド系解熱鎮痛薬(ロキソプロフェンなど)」「トリプタン製剤」などがあります。中等度以上の頭痛の場合は、片頭痛の特異的治療薬である「トリプタン製剤(わが国では現在5種類が上梓されています)」が有効です。「トリプタン製剤」は、頭痛発症後30分~1時間以内の内服がのぞましく、数時間たってから服用しても効果がみられないことがよくあります。また吐き気が強く、嘔吐してしまう場合は、内服したトリプタンが最終的に吸収されていないことがありますので、口腔内崩壊錠や点鼻薬などを使用する、あるいはトリプタン内服前に制吐薬を内服する、という方法もあります。

次に「予防治療」ですが、現在使用可能な片頭痛の予防治療薬には「バルプロ酸ナトリウム」「プロプラノロール」「アミトリプチリン」「ロメリジン」などの経口薬があります。メカニズムの詳細は不明ですが、いずれも「片頭痛」の閾値をあげることで、1ヶ月の片頭痛発作回数を減らしたり、頭痛がおきたときの重症度を和らげたりする効果が期待できます。すぐに予防効果が現れる患者さまもおられますが、数か月遅れてから効果が出てくることもありますので、効果の判定には予防治療薬を3ヶ月ほど継続することが必要です。さらに、新たに令和3年から「ガルガネズマブ」などのCGRPという痛みにかかわる分子を標的とした皮下注製剤が、新たな予防治療薬として保険適応となりました。経口薬による予防効果が不十分であった患者さまにとっては新たな福音となると考えられます。

4. 緊張型頭痛

緊張型頭痛はもっとも一般的な頭痛で、頭の両側がギューッと締めつけられるような痛みが繰り返し生じるのが典型的です。頭痛があっても、家事や仕事はこなすことができる程度で、また頭痛に伴って吐き気がない場合などは、緊張型頭痛のことが多いです。痛む場所はさまざまで、後頚部であったり、こめかみであったり、前頭部であったりします。

片頭痛が体質性頭痛であるのに対し、緊張型頭痛は生活習慣が原因のことが多いです。うつむき姿勢を長くとられるデスクワーカーやスマホのヘビーユーザーなど、身体要因(肩こり・首こり)が強い方と、仕事やご家庭での精神的ストレスなど心因が強い方がおられます。

頭痛が強いときには、市販の頭痛薬や、非ステロイド系解熱鎮痛薬・アセトアミノフェンの内服をしていただきますが、根本的な対応としては、生活習慣へのアプローチが必要です。頭痛体操など、ストレッチや軽い筋トレなどをおすすめしていますが、どうしても筋緊張がとれない方には、筋弛緩薬を内服してもらうこともあります。予防治療として「アミトリプチリン」を処方していただくこともあります。

5. 群発頭痛

群発頭痛は、強烈に痛い片側性(右か左かどちらか)の一次性頭痛で、痛みがあまりに強いため、じっとしていられずに歩き回る方もいらっしゃいます(片頭痛は痛みのために寝込むことがありますが、群発頭痛では痛みが強すぎるため寝てもいられない、といった感じです)。頭痛時には、痛みを感じる側の眼から流涙したり、痛みを感じる側の鼻孔から鼻水が出たり、痛みを感じる側の瞼が下がって見えたりするなど、同側の自律神経症状を伴うのが特徴です。

1回の群発頭痛の発作は、基本的に(薬を飲んでも飲まなくても)3時間以内におさまり、1日1回~8回くりかえし生じます。多くの群発頭痛では、群発期(頭痛が連日生じる期間)と非群発期(頭痛がない期間)に分けられ、群発期は数週間から数か月続き、自然におさまることが一般的です。

群発頭痛の有病率は10万人あたり50人と、一次性頭痛のなかでは比較的低いため、医師のなかには群発頭痛の患者さまを診療した経験したことがない場合もあります。ですから、医療機関を受診しても未診断のままの場合もあります。そのため、患者さまご自身がインターネットで検索して、「自分の頭痛が群発頭痛じゃないか」と正しく診断して外来を受診することも稀ではありません。

群発頭痛の治療は、片頭痛と同様に、「急性期治療」と「予防治療」に分かれます。急性期治療では、酸素吸入とイミグランの皮下注射が保険適応となっています。皮下注製剤には自己注射ができるキットもあります。予防治療では、ベラパミルの内服、場合によってはステロイド剤の内服などがあり、頭痛発作の抑制・軽症化が可能です。

6. 薬物過使用による頭痛

片頭痛も緊張型頭痛も、頭痛はくりかえし起きることが特徴ですから、痛みがひどい場合、毎日頭痛薬を服用されることがあります。月に数日程度であればいいのですが、月の半分以上(15日以上)頭痛薬を内服することが数か月続いている場合、頭痛を感じるレベル=閾値(いきち)が下がり、次第に頭痛が強くなったり、頭痛の頻度がさらに増えたりすることがあります。やがて、薬を服用しても効かない頭痛が出てきます。このような頭痛を「薬物過使用による頭痛(薬物乱用頭痛)」といいます。

薬物乱用頭痛では「患者は頭痛が治らないので医師に頭痛薬の処方を求めてしまい」「医師は患者の頭痛を何とかしてあげたいので頭痛薬を更に処方してしまう」という、いわば「善意の悪循環」によって、さらに頭痛は悪化していきます。薬物乱用頭痛の診療においては、「診療している医師が薬物乱用頭痛の存在と対処法を熟知していること」「患者と医師の間に信頼関係があること」が大切です。「頭痛外来」には薬物乱用頭痛の診療になれた医師がいることが多いので、「薬が増えてきた頭痛」「薬が効かなくなってきた頭痛」をお持ちの場合は、頭痛外来の受診をおすすめします。

薬物乱用頭痛の治療は、基本的に「原因となっている薬物を中止すること」しかありません。薬物を中止しながら、原因となっている背景の一次性頭痛(片頭痛や緊張型頭痛であることが多いです)を診断し、そちらの予防治療や生活習慣への介入を行います。また頭痛日記を用いて、認知行動療法的アプローチも重要となります。薬を止めると、数週間後には、もとの頭痛パターンに戻ることが多いです。