肺がん

肺がんについて

呼吸器内科では、肺がん、気管支喘息、COPD(慢性閉塞性肺疾患、いわゆる肺気腫や慢性気管支炎)、間質性肺疾患、肺炎、睡眠時無呼吸症候群などを中心に、多くの呼吸器疾患を診療しています。これらの中でも、当院は大阪府がん診療拠点病院として、特に肺がん診療に力を入れています。総合病院としての特長を生かし、内科医、外科医、放射線科医、緩和ケア医、看護師、薬剤師、リハビリテーション、管理栄養士、医療ソーシャルワーカーなど多職種によるチーム医療を行っています。

肺がんは肺に発生したがんのことで、肺自体から発生した原発性肺がんと他の臓器に発生したがんが肺に転移した転移性肺がん(または肺転移)に分かれます。通常いわれている肺がんとは、原発性肺がんを指します。日本人の2人に1人ががんになるといわれていますが、がんの中で最も死亡数が多いのが肺がんです。

日常生活で大切なこと

がんを予防するためには、タバコを吸わないことが最も大切です。日本の研究では、がんになった人のうち、男性で24%、女性で4%はタバコが原因だと考えられています。また、がんによる死亡のうち、男性で30%、女性で5%はタバコが原因だと考えられています。(「がん情報サービス」より引用)

タバコを吸っている年数が長いほど、また1日のタバコ本数が多いほどがんになりやすい傾向がみられています。1日に吸うタバコの本数と喫煙年数をかけた「ブリンクマン指数(喫煙指数)」というものがあります。例えば毎日1箱(20本入り)を20歳から吸っている40歳の人は、20本×20年=400となります。この数値が400を超えると肺がんを発症する危険性が高くなり、600以上は肺がんの高危険群といわれています。

タバコには約60種類の発がん物質が含まれており、肺や気管支が繰り返し発がん物質にさらされることにより細胞に遺伝子変異が起こり、この遺伝子変異が積み重なることでがんが発生します。周囲の人の喫煙も有害となります。また一部のがん治療薬は、喫煙者で効果が小さく副作用が大きくなることもあります。本人の禁煙はもちろんのこと、まわりの家族や職場と協力して、禁煙することが大切です。タバコについては、最後の“タバコのこわい話”を一読して頂ければと思います。

早期発見

肺がんに特徴的な症状はありません。せき、たん、血たん、だるさ、息苦しさ、痛み、体重減少など様々ですが、これらの症状は他の病気でもみられます。また無症状の場合も多く、検診や他の病気で行った胸部X線やCTで偶然発見されることもあります。したがって人間ドックや検診を定期的に受けること、また時にはオプションでCT検診を行うことも大切です。

適切な検査と正確な診断

胸部X線やCTで肺がんを疑った場合には、まず肺がんであることを調べる検査(喀痰検査、気管支鏡検査、CTガイド下生検、胸水がたまっている場合には胸水検査や胸腔鏡検査)を行います。

  • 気管支鏡検査は口または鼻からカメラを挿入し気管支の中にカメラを進め、さらにカメラを介して組織や細胞を採取する器具(鉗子やブラシ)を進めて病変を採取します。その際にエコーを用いることで、診断率が高くなります。またリンパ節が腫れている場合には専用の気管支鏡を用いて、リンパ節を穿刺して組織を採取します。気管支鏡を進める気管支は少しの刺激でもせき込むため、患者さまにとって苦痛を伴う検査です。しかし肺がんの診断のためには最も大切な検査でもあります。当院では検査時にミダゾラム注とフェンタニル注を併用することで、検査に伴う苦痛をできるだけ和らげることに努めています。
  • CTガイド下生検は気管支鏡検査で診断困難な場合に行うことが多く、CT装置を用いて体表から病変に向けて針を進めて組織を採取します。
  • ある程度以上の胸水が貯留している場合に、エコーを用いて体表から胸腔(胸水が貯留している場所)に向けて針を進めて胸水を採取・排液します。胸水検査で診断に至らない場合は胸腔鏡検査を局所麻酔下に行います。局所麻酔下胸腔鏡検査は、体表に切開を入れて胸腔(胸水が貯留している場所)に向けてカメラを挿入し、胸膜にある病変を採取します。

これらの検査で肺がんと診断しますが、がん細胞を顕微鏡で見たときの形態で小細胞がんと非小細胞がんに分類し、さらに非小細胞がんは腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんに分類します。その後、進行度を調べるために全身CT、骨シンチ、PET、脳MRIなどを行います。進行度は病変の大きさ、リンパ節転移、遠隔転移(脳、骨、肝臓、副腎、がん性胸水など)の有無により、I期~IV期までに分類し、さらに各々をA~BまたはA~Cに分類します。

肺がんの組織図

組織型 発生しやすい部位 特徴
小細胞肺がん
小細胞がん
(約10~15%)
肺門部・肺野
  • 増殖が速い
  • 転移しやすい
  • 喫煙との関連が大きい
  • 抗がん剤、放射線療法に対する感受性が高い
非小細胞肺がん
腺がん
(約50%)
肺野
  • 肺がんの中で最も多い
  • 症状が現れにくい
扁平上皮がん
(約30%)
肺門部・肺野
  • 咳や血痰などの症状が現れやすい
  • 喫煙との関連が大きい
大細胞がん
(約10%)
肺野
  • 増殖が速い
  • 小細胞がんと同じような性質を示す場合もある

最新の治療

治療は緩和ケア治療を土台に、手術、放射線治療、がん薬物治療の3本柱を組み合わせて行います。

小細胞がんと非小細胞がんでは進行度による治療法が異なります。早期であれば手術により治癒が期待できるため、手術適応があれば呼吸器外科で積極的に手術を行っています。しかし発見されたときにはすでに進行している場合が多く、進行度により放射線治療や薬物療法を組み合わせた治療法を選択します。

薬物療法には点滴と飲み薬がありますが、いずれも薬が体に吸収されて、全身に作用します。入院で投薬を導入し、その後は日常生活の質を保ちながら外来で治療を継続するようにしています。

放射線治療は、放射線治療装置Novalis Tx(ノバリスティーエックス)によって体に優しい精密な放射線治療が可能です。放射線治療と薬物療法の併用療法は入院で行いますが、定位照射(病巣のみピンポイントで照射すること)や疼痛コントロールを目的とした放射線治療は外来で行うことも可能です。

小細胞がん

発見時にはすでに進行していることが多く、一部を除き手術が適応になることはありません。遠隔転移(脳、骨、肝臓、副腎、がん性胸水など)がない場合には、放射線治療と薬物療法を組み合わせた治療を行います。遠隔転移(脳、骨、肝臓、副腎、がん性胸水など)がある場合には薬物療法を行います。

非小細胞がん

非小細胞がんは、IA期では手術のみ、IB期から手術可能なIIIA期までは手術後に抗がん剤治療を組み合わせるのが一般的です。何らかの理由で手術ができない場合は、手術の代わりに定位放射線照射を行うこともあります。

手術が不可能なIIIAからIIIC期では放射線照射と薬物療法の併用療法を行います。放射線照射ができないIIIBからIV期では薬物療法を行います。

薬物療法は扁平上皮がんと非扁平上皮がんに分けて考えられ、より効果的で安全な薬を用いるように判断しています。また免疫チェックポイント阻害薬や分子標的治療薬と呼ばれる薬が、現在の薬物療法の主流になってきています。

手術

手術では、早期がんに対しての完全胸腔鏡手術(傷が小さく、痛みが軽いため、術後の回復が早い手術)から、進行がんの多組織・他臓器の合併切除術まで対応しています。手術の術式に関して患者さまの病態に応じて最適なものを選択し、根治性を高めることに努めています。また、手術や抗がん剤、放射線治療を併用した集学的治療を活用することで根治性を上げ、予後が良くなるようにしていきます。

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放射線治療

手術が不可能な局所進行がんに対して、一般的には抗がん剤治療と組み合わせて放射線治療を行います。抗がん剤の使用が困難な場合には、放射線単独で治療を行うこともあります。ただし、放射線治療により、放射線肺臓炎を含む間質性肺疾患が問題となることが予測される場合は照射を回避することもあります。一般的には6週間ほどの照射期間となります。

近年、アブスコパル効果といわれる、放射線治療による免疫反応の増強で照射されていない部位にも治療効果が得られることが注目されています。免疫チェックポイント阻害薬との併用でさらに効果が増強される可能性が考えられています。リンパ節領域は、従来は微小な転移も考慮して広めに照射されていましたが、最近では画像で確認された転移リンパ節のみを対象とし、照射範囲を抑える方法が選択されています。

手術が可能な病期でも年齢や合併症のために手術不能と判断された場合には根治的放射線治療を行います。さらに末梢に存在するI期例では、定位放射線治療により短期間で切除せずに治療を行うことができます。

治癒が期待できない状況でも腫瘍により血管や気管が圧迫され狭くなっているような場合は、症状改善のための放射線治療を行います。また骨転移や脳転移に対しても症状を和らげるために放射線治療を行います。高精度放射線治療により照射された腫瘍が消失する場合もあります。

がん薬物療法

がん薬物療法の薬には抗がん剤、分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害薬があります。

抗がん剤

抗がん剤は点滴または内服することで、がん細胞を殺す治療です。しかし正常な細胞にも作用してしまうため副作用が起きます。抗がん剤の副作用は以下のようにさまざまですが、投与する薬剤により出現する副作用の種類や程度は異なります。

分子標的治療薬

特定の遺伝子変異のある肺がんには、その分子を攻撃するいわゆる分子標的治療薬が有効です。検査の時に採取したがん病変のがん遺伝子変異の有無を検査することで、分子標的治療薬の治療効果が期待できるか否かを判別します。すべての患者さまに投与できるわけではありませんが、抗がん剤治療より良好な腫瘍縮小効果と延命効果が得られています。ただし耐性という問題もあり、一定期間の後に効果がなくなります。副作用は下痢、皮疹、肝機能障害、薬剤性肺炎などに注意が必要です。また血管新生阻害薬と呼ばれる薬剤との併用治療を行うこともあります。

免疫チェックポイント阻害薬

がん遺伝子変異を持ってない非小細胞がん患者さまは免疫チェックポイント阻害薬を積極的に用います。免疫チェックポイント阻害薬は昔からの免疫療法のように免疫力を向上させるのではなく、がん細胞が人の免疫力から逃れようとする働きに作用して、免疫細胞ががん細胞を攻撃できるように正常な状態に戻すことを目的とした薬剤です。現在では初回治療に、免疫チェックポイント阻害薬と抗がん剤の併用治療、異なる免疫チェックポイント阻害薬の併用治療、さらには異なる免疫チェックポイントの併用治療に抗がん剤を併用した治療と、さまざまな薬剤を組み合わせた治療が用いられています。

緩和ケア治療

肺がんと診断されたと同時に、肺がんに対する緩和治療が開始になります。特に痛みや息苦しさを自覚している場合に、薬を用いて症状の軽減を目指します。肺がんが進行して積極的治療が困難になってきた場合には、緩和ケア内科と連携して緩和ケア病棟で穏やかに過ごしていただけるようサポートしています。

タバコのこわい話

日本人の喫煙率(2019年)は16.7%で、男性は27.1%、女性は7.6%です。男性は1995年以降は20~60歳代で減少傾向です。女性は2004年以降は20~40歳代では減少傾向ですが、50歳代では増加傾向です。

喫煙による悪影響

タバコを吸っている本人がなりやすいがんとがん以外の健康被害(レベル1)

  • *レベル1「科学的証拠は、因果関係を推定するのに十分である」
  • *厚生労働省「喫煙と健康喫煙の健康影響に関する検討会報告書」(2016年)より作成

肺がんになりやすい

肺がんは1日1箱(20本)×20年間の喫煙で、非喫煙者と比較して4.5倍の罹患リスクになります。また禁煙後に肺がんのリスクが非喫煙者と同程度になるまでに、約20年かかります。

呼吸器の病気になりやすい

人は加齢とともに肺の働きが低下しますが、喫煙者では低下が急速です。喫煙者はせきやたんを自覚し、いわゆる慢性気管支炎の状態にあります。また慢性閉塞性肺疾患(COPD)を発症しやすく、息切れや低酸素の原因になります。また肺炎や肺結核などの感染症のリスクが高くなり、喘息発作の原因にもなります。

呼吸器以外の病気になりやすい

動脈硬化になりやすいため動脈が詰まりやすく、虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)腹部大動脈瘤や脳卒中などのリスクが高くなります。また胃十二指腸潰瘍、歯周病になりやすく、妊娠中に喫煙すると早産や低出生体重・胎児発育遅延などの確率が高くなります。

受動喫煙の害

タバコを吸う本人以外がタバコの煙にさらされることを「受動喫煙(じゅどうきつえん)」と呼びます。喫煙者が吸うタバコの煙(主流煙)の中の化学物質は、タバコ製品の燃焼部分から出る煙(副流煙)や喫煙者が吐き出す煙の中にも存在しており、受動喫煙はタバコを吸わない人の肺がんの原因の1つになります。副流煙はフィルターを通しておらず、燃焼温度が低いことから、主流煙よりも多くの有害物質を含みます。

家庭や職場での受動喫煙が呼吸器症状や病気の増加の原因となり、せき2.6~3.8倍、たん1.4~4.5倍、息ぎれ1.4~4.5倍、気管支喘息1.4~1.6倍、慢性気管支炎1.7~5.6倍に増加します。胎児や子供への影響も大きく、自然流産1.1~2.2倍、乳幼児突然死4.7倍、低体重出生1.2~1.6倍、むし歯2倍、肺炎・気管支炎1.5~2.5倍、気管支喘息1.5倍、せき・たん・喘鳴1.5倍、中耳炎1.2~1.6倍、知能低下(IQ 5%低下)などのリスクとなります。

また受動喫煙者の数%が最終的に受動喫煙で死亡すると言われ、毎年アメリカで数万人、日本で1万人が受動喫煙死しています。「別室で吸う」「換気する」「空気清浄機」などの「分煙」が受動喫煙を減らせないことが客観的指標を用いた研究でわかっています。また空調で室内のタバコ煙濃度を安全レベルまで減らすことは不可能です。
完全禁煙以外に、受動喫煙から非喫煙者の健康を守る対策はありません

加熱式タバコや電子タバコについて(日本呼吸器学会ホームページより抜粋)

日本ではニコチンを含む電子タバコの製造や販売は承認されていませんが、市販されている電子タバコからニコチンが検出されたとの報告もあります。海外ではニコチンを含む電子タバコが承認されています。

原材料は無害であっても加熱されることにより、発がん性のある有害物質が生じることが報告されています。また加熱式タバコや電子タバコが紙巻タバコよりも健康リスクが低いという証拠はなく、ニコチンを含む・含まないにかかわらず健康への影響が懸念されることから、電子タバコの使用は推奨できません。また電子タバコが紙巻タバコの禁煙に役立つという明確な証拠もありません。

加熱式タバコは煙が見えにくいために受動喫煙は生じないように受け止めがちです。しかし、加熱式タバコ喫煙者の呼気には有害成分が含まれており、2メートル以上の距離まで届くことが確認されています。

健康に有害な微小粒子状物質(PM2.5)も2メートル地点に十分届くことが示されており、実際に加熱式タバコを近くで喫煙された場合、非喫煙者の37%に気分不良などの症状が発生したことすでに報告されています。

加熱式タバコの長期間の受動喫煙による健康被害を科学的に明らかにするには今後の研究が必要ですが、加熱式タバコの喫煙者や電子タバコの使用者の呼気には有害成分が含まれており、喫煙者・使用者だけでなく、他者にも健康被害を起こす可能性が高いと考えられています。加熱式タバコの喫煙や電子タバコの使用の際には紙巻タバコと同様な二次曝露対策が必要です。

禁煙による健康へのメリット

あらゆる喫煙者にとって、禁煙はすぐに、また長期的な健康上のメリットがある。

禁煙してからの経過時間 健康上の好ましい変化
20分以内 心拍数と血圧が低下する
12時間 血中一酸化炭素値が低下し正常値になる
2-12週間 血液循環が改善し肺機能が高まる
1-9カ月 咳や息切れが減る
1年 冠動脈性心疾患のリスクが喫煙者の約半分に低下する
5年 禁煙後5-15年で脳卒中のリスクが非喫煙者と同じになる
10年 肺がんのリスクが喫煙者に比べて約半分に低下し、口腔、咽喉、食道、膀胱、頸部、膵臓がんのリスクも低下する
15年 冠動脈性心疾患のリスクが非喫煙者と同じになる

全年齢層ですでに喫煙関連の健康問題が生じている人にもたらされるメリット。

禁煙の時期 喫煙を続けている人と比較したメリット
30歳頃 寿命が約10年長くなる
40歳頃 寿命が9年長くなる
50歳頃 寿命が6年長くなる
60歳頃 寿命が3年長くなる
生命に関わる疾患の発症後 心臓発作の発症後に禁煙すれば、次の心臓発作が起きる可能性を50%低下させるなど、迅速な効果がある

出展:がん情報サービス ganjoho.jp

禁煙によって、受動喫煙関連の多くの小児病の過度のリスクを減らすことができる。

禁煙によって、不妊、早産、低出生体重児、流産の可能性が低下する。