膵臓がん

膵臓がんとは

膵臓がんは胃の裏(背中側)に存在する膵臓に発生するがんです。代表的ながんの種類は以下のように分類されます。

  • 浸潤性膵管がん
  • 膵管内乳頭粘液性腫瘍
  • 粘液性嚢胞腫瘍
  • 漿液性腫瘍
  • 神経内分泌腫瘍

これらのうち、浸潤性膵管がんが最も多く、一般的に膵がんといえばこの浸潤性膵管がんを指します。以下に浸潤性膵管がんについて記載をします。

膵臓の解剖

膵臓は図のように膵頭部、膵体部、膵尾部に分けられており、膵頭部に発生したがん(膵頭部がん)と膵体部や尾部に発生したがん(膵体尾部がん)では症状や手術法などが異なります。

膵がんの疫学

  • 部位別がん罹患数では膵がんは第7位(男性は第7位、女性は第6位)です。
  • 部位別がん死亡数では膵がんは第4位(男性は第5位、女性は第3位)です。
  • 膵がんの5年相対生存率は10%以下であり、難治がんの一つとされています。

膵がんの危険因子

  1. 家族歴(膵がん家族歴、家族性膵がん、膵がん以外の家族歴):近親者に膵がんが多ければ多いほど発生リスクは高まります。
  2. 遺伝性膵がん症候群:特定の原因遺伝子によって家系内で膵がんが多発する疾患のことです。
  3. 生活習慣病:糖尿病や肥満があります。
  4. 膵疾患:慢性膵炎、膵管内乳頭粘液性腫瘍、膵嚢胞などがあると発生リスクが高まります。
  5. 嗜好:喫煙や飲酒があります。

膵がんの症状

腹痛、腹部膨満感、黄疸、体重減少、背部痛、糖尿病増悪などがあります。しかし、膵がんは特徴的な症状に乏しく、進行した状態での症状となり、一般的には症状は早期発見の指標となりにくいとされています。また頻度の高い黄疸に関しては、膵頭部がんで多く見られる一方、膵体尾部がんでは出現しませんので、膵体尾部がんはより一層症状に乏しく、見つかりにくいとされています。

膵がん発見のための検査

上記のような症状があれば膵がんを疑い検査を進めていきます。また、膵がんの危険因子を有する場合は定期的な検査をお勧めします。次項の当院で行っている「膵がん早期診断プロジェクト」をご覧ください。

膵がん早期診断プロジェクト

ほとんどの患者さまは上記のような症状が出てから医療機関を受診されています。しかし、初診時に約2割しか手術適応になりません。つまり約8割はすでに遠隔転移(肝臓、肺、腹膜播種、リンパ節、骨などに転移することがあります)などで手術では取り切れない状態で見つかっています。強い症状が出る前に、できる限り手術ができる状態で膵がんを発見することが重要となります。そのために、当院では近隣医療機関の先生方と協力し膵がん早期診断プロジェクトを行っています。具体的には膵がんの危険因子がある患者さまはかかりつけの先生に相談していただき、当院へ紹介していただきます。紹介していただいたその日のうちに血液検査(腫瘍マーカーを含む)、腹部超音波検査、MRI(MRCP)を行います。異常があればさらに精密検査を進めます。異常がなくても今後の定期検査の予定をくみます。

検査の順序

(膵がん診療ガイドライン2022年版から引用)

画像検査の実際

腹部超音波検査(US)

簡便な検査で被曝の心配がなく、第一段階で行うことが多い検査です。しかし膵臓は奥深い場所にあるため、超音波で病気がわかりにくい場合もあるので次のCT検査などを併用することが一般的です。

CT検査

通常は造影剤の注射を行ってから撮影します。超音波で見えにくい場所も見えます。造影剤は、腎機能が悪い患者さま、喘息や造影剤アレルギーのある患者さまには使用できません。

MRI(MRCP)検査

主膵管(膵臓で作られた膵液の流れ道)や胆管(肝臓で作られた胆汁の流れ道)を詳細に観察することができます。体内に金属やペースメーカーの入っている患者さま、刺青のある患者さまには使用できない場合があります。

ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)検査

口から内視鏡を挿入し、十二指腸にある胆管と膵管の出口から、胆管や膵管の中に細いカテーテルを使用して造影剤を入れ、レントゲン写真を撮る検査です。がんにより胆管や膵管が細くなっている部分の評価を行います。その際に、肝臓や膵臓から作られる消化液である胆汁や膵液や、病気のある場所から細胞や組織を採取して検査を行います。また、胆管が細くなっているために胆汁の排出に問題があり、体が黄色くなる黄疸が出ている場合や、胆管が菌に感染している場合などには、排液をよくするために胆管の中にチューブや金属のステントを留置します。

EUS(超音波内視鏡)

膵臓や胆管は、体のほぼ中心にあり、胃や腸といった消化管がその前面に被っているためにおなかの上からの超音波の検査では観察しにくいことがあります。超音波内視鏡検査は、先端に超音波の装置が付いた胃カメラを使用して、胃や十二指腸の中から、膵臓や胆管、胆のうといった臓器を観察する検査です。膵臓は胃の裏側にあるため、通常の腹部超音波検査より観察しやすくなります。また、検査時に病気の部分に針を刺して、その部分の細胞を採取し膵がんの確定診断を行うことができます。また、ERCPの検査時に、カメラの中から小さな超音波の機械を出して、胆管や膵管の中に挿入し、観察する場合もあります。

PET検査

膵臓がんの部位が赤くなります。また遠隔転移の診断にも有用です。

膵がんの治療方針

(膵がん診療ガイドライン2022年版から引用)

各治療法の実際

切除が可能な場合

日本肝胆膵外科学会高度技能指導医を中心として手術を行っています。

術前補助化学療法

術後の予後改善を目的として、まず化学療法(抗がん剤治療)を行ってから手術を行っています。期間は2か月前後で、外来通院で可能です。抗がん剤の種類はがんの病態に応じて変わることがありますので主治医と相談をして下さい。ただし、様々な理由から術前補助化学療法を行わないこともあります。また、化学療法施行中に遠隔転移が出現するなどで手術が不可能になることもありますが、その際は化学治療の継続をすることになります。

手術/術式

膵頭部がん

膵頭十二指腸切除を行います。がんの状態によっては門脈合併切除を行うこともあります。切除する臓器は、膵頭部・胆管・胆嚢・十二指腸・胃の1/5程度・膵臓周辺のリンパ節です。切除後は小腸を用いて膵空腸吻合・胆管空腸吻合・胃空腸吻合を行い、食べ物や膵液や胆汁の流れ道を再建します。

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膵体尾部がん

膵体尾部切除・脾摘術を行います。切除する臓器は膵体尾部・脾臓・膵臓周辺のリンパ節です。低悪性度の場合には脾臓を温存することもあります。

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術後合併症

膵頭十二指腸切除の場合
  • 膵液瘻:膵臓と小腸のつなぎ目から膵液が漏出することです。おなかの中に留置した柔らかいチューブ(ドレーン)で治療をします。自然に漏出が改善することを待ちます。
  • 仮性動脈瘤:膵液瘻があると、膵液によって膵臓周囲にある動脈壁が溶け動脈瘤を形成します。さらには動脈瘤が破裂することがあります。緊急でカテーテル止血や開腹止血術を要することがあります。
  • 胃内容排泄遅延:胃から小腸への食べ物の流れが悪い状態を指します。食事を開始すると胃膨満感、胸やけ、悪心、嘔吐、吃逆(げっぷ)を訴えることがあります。対処法は絶食と胃管挿入(鼻から胃に細いチューブ入れること)をして胃の内容物を減圧させます。自然と流れが改善することを待ちます。
  • 膵液瘻以外の縫合不全:胆管と小腸の吻合部や胃と小腸の吻合部がきっちりとつながらない状態です。頻度はさほど高くありません。
  • 感染性合併症:創感染(傷口の化膿)、腹腔内膿瘍(おなかの中に膿が溜まる)、肺炎などがあります。
  • 糖尿病:術前に糖尿病がなくても術後に糖尿病になることがあります。膵臓が小さくなることで血糖値を下げる働きのあるインスリンが減少することによります。その際には糖尿病薬を開始します。
  • 胆管炎:胆管と小腸の吻合部から腸液が胆管内に逆流し胆管炎を発症することがあります。通常は抗生剤治療で改善しますが、胆管と小腸の吻合部が狭くなっていることが原因であれば、拡張する処置が必要になることもあります。
膵体尾部切除の場合
  • 膵液瘻:膵臓の断端から膵液が漏出することです。治療法は膵頭十二指腸切除と同様です。
  • 仮性動脈瘤:膵頭十二指腸切除と同様です。
  • 糖尿病:膵頭十二指腸切除と同様です。
  • 感染性合併症:膵頭十二指腸切除と同様です。
  • 脾摘後合併症:免疫能低下をきたすことがありますので、肺炎球菌ワクチンの接種を行います。また、血小板が増加し血栓を形成しやすくなりますので、抗血小板薬を使用することがあります。

術後補助化学療法

手術で膵がんを切除できた場合でも再発をきたす場合がありますので、再発予防に化学療法を約6か月間施行することを原則としています。内服薬を使用することが多いですが点滴薬を使うこともあります。いずれも入院の必要はなく外来通院で治療可能です。体調面などで化学療法が施行できないこともありますので主治医とご相談ください。

再発時

残念ながら上記治療をしても再発した際には、次項にあります化学療法や放射線療法や緩和療法を行います。

切除ができない場合や術後再発の場合

・化学療法(膵がん診療ガイドライン2022年版から引用)

外科的切除が難しい膵がんや、切除後に再発した膵がんに対しては、がんの進行を抑える目的で抗がん剤を使用した化学療法を行います。膵がんの化学療法に最初に1次治療として使用する抗がん剤の組み合わせには、オキサリプラチン、イリノテカン、フルオロウラシル、レボホリナートを組み合わせたFORFILINOX療法、ゲムシタビン・ナブパクリタキセル併用療法、ゲムシタビン・エルロチニブ併用療法、ゲムシタビン単独療法、S-1単独療法などがあります。遠隔転移や併存疾患の有無によってどの治療方法を使用するかを決定します。約2か月程度で、抗がん剤の効果を判定し、有効であれば継続し、効果が十分でなければ抗がん剤の治療を変更します。2次治療には、1次治療に使用した抗がん剤とは違う系統の抗がん剤を使用することが一般的です。

放射線療法

切除不能膵がんに対し、化学放射線療法が行われることがあります。腫瘍と転移が疑われるリンパ節を照射対象としますが、予防的なリンパ節領域を含むこともあります。多門照射や原体照射で照射を行いますが、最近は体幹部定位放射線治療(SBRT)も検討されています。通常は5~6週間の照射期間となります。

緩和療法

緩和療法について

当院の診療実績(2022年度)

膵切除術:12例(膵頭十二指腸切除:10例、膵体尾部切除術:2例)

最後に

当院は日本膵臓学会認定指導施設に認定されており、検査から治療(手術、化学療法、放射線療法、緩和療法など)まで円滑に切れ目なく行えるように各診療科医師(外科、消化器内科、放射線科、病理診断科、緩和ケア内科)、看護師、薬剤師、検査技師、臨床工学技士などの多職種が連携しながら、治療にあたっています。