前立腺がん

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疫学

日本の最新がん統計では2017年の前立腺がん罹患数は91,215名で男性のがん1位である。

1位 2位 3位 4位 5位
男性 前立腺 大腸 肝臓
女性 乳房 大腸 子宮
総数 大腸 乳房 前立腺

5年相対生存率(がんと診断されてから5年後に生存している人の割合)は前立腺がんでは99.1%であり、すい臓がん(8.9%)、肺がん(29.5%)、全部位(62.0%)と比べて圧倒的に予後がよい。

ラテントがんと臨床がん

生前臨床的に前立腺がんの兆候がみられずに死後剖検により初めて前立腺がんの存在を確認したものをラテントがんとよぶ。ラテントがんの頻度は50歳以降に年齢とともに増加し80歳代では約50%に達する。腫瘍容積が0.5cc、直径1cm付近が潜在がんから臨床がんへの境界であると考えられており、腫瘍容積0.5㏄以下のがんを臨床的に重要でないがん(clinically insignificant cancer)と呼ぶこともある。

症状

初期には無症状である。前立腺がんの局所症状としては排尿困難、頻尿、血尿、排尿時痛などがあり、先に骨転移による疼痛がきて前立腺がんが発見されることもある。

検査・診断方法

PSA(Prostate Specific Antigen前立腺特異抗原)

前立腺細胞が産生するセリンプロテアーゼで、通常は精液中の蛋白を分解して精子の運動を促進させる。がん、肥大症、炎症などにより前立腺腺管の基底膜を通って血液中に逸脱して血清PSAが上昇する。前立腺がん診断における最も重要な腫瘍マーカーで、PSAの基準値は4ng/ml以下とされている。PSA4-10ng/mlではがん罹患率約25%、10ng/ml以上では60%に達する。PSA1ng/mlであってもがん罹患率が10%程度に認められるため、明確なカットオフ値はないと考えられている。

直腸内指診(触診)

前立腺の診察は患者の肛門内に指を挿入して、前立腺の大きさ、表面の性状、硬さ、境界につき評価する。がんでは硬くなり、しこり、凹凸不整、左右非対称、境界不明瞭などの特徴的な所見がみられる。

超音波断層法

経腹壁的または経直腸的に前立腺を描出する。診察室で、前立腺の大きさ計測、断面形状、対称性、内部エコー、被膜エコーなどの形態的評価をすることにより、がん診断、浸潤度評価を行う。超音波検査は人体に無侵襲であり、簡易性に優れ、有用性が非常に高い。

MRI(Magnetic Resonance Imaging磁気共鳴画像)

現在、前立腺がんの画像診断では最も信頼性のおける検査法と考えられている。前立腺内部の構造、細胞密度、血流を評価するMulti-parametric MRIという手法を用いることで、治療すべきがん病巣を正確に評価することができる。

CT(Computed Tomography コンピューター断層撮影)

前立腺がんのリンパ節転移や他臓器転移などの病期分類に有用である。

骨シンチ

前立腺がんの骨転移の評価に有用である。

前立腺生検

腫瘍マーカーや画像診断はがんの存在を示唆するものであり、最終的には生検でがん組織を証明することによりがん診断が確定する。局所麻酔を行い、超音波ガイド下に会陰部より生検針を用いて前立腺組織を採取する。前立腺を領域に分割して領域毎に組織を採取する系統的生検とMRIや超音波でのがん疑い病変領域を採取する狙撃生検を組み合わせて行うことで、がん検出率を上げ、見落としの少ない検査が可能となる。合計で8~12本の前立腺組織を採取する。

前立腺がんの病期と治療方針

治療

NCCNガイドラインを参考に治療法を決定する。局所限局がんは局所治療を行い、転移がんは全身治療を行う原則はあるが、リスク分類(病期、PSA、病理所見)、年齢、全身状態、QOL、ご希望により最終決定する。

PSA監視療法

PSA検査の普及により、前立腺がんの早期発見が可能となる一方で、即時治療が必要でない患者への過剰治療を回避する。がんの進行が遅い低リスクや予後の良い中リスクの場合には、がんの進行を監視しながら、尿失禁、勃起障害などQOLを低下させる合併症を伴う根治的治療を先延ばしにすることを目的とする。3か月毎にPSAを測定、定期的にMRIや必要に応じて再生検を行い、病気の進行を監視する。高齢で、前立腺がんが生命予後に影響を及ぼさない場合にも、定期的なPSA検査を行い経過を見る場合がある。

手術療法

局所限局がんの治療として、前立腺全摘除術は開腹手術またはロボット支援手術にて行う。当院では最新の手術支援ロボット(da Vinci Xi)を保有しています。

放射線療法

局所前立腺がんの治療として、当院では強度変調放射線治療(IMRTIntensity ModularedRadiation Therapy)を行っている。IMRTはコンピュータによるマルチリーフコリメータを制御して、高線量で副作用の少ない治療が可能となる。その他に重粒子線・陽子線治療、小線源療法をご希望の方は当該施設へご紹介する。

内分泌療法

転移がんの1次治療で、去勢手術やLH-RHアゴニスト、アンタゴニスト注射剤により男性ホルモンを除去することにより前立腺がんを縮小させる。ご高齢で手術や放射線治療が難しい局所限局がんに対して行う場合もある。内服薬である新規抗男性ホルモン薬(ザイティガ、イクスタンジ、アパルタミド、ダロルタミド)により転移がんや去勢抵抗性がんの予後延長が可能となっている。

化学療法

転移がんや去勢抵抗性がんに対し、タキサン系の抗がん剤であるドセタキセル、カバジタキセルを経静脈的に投与する。初回は入院で行い、安全性を確かめた後に外来通院で投与を継続する。

アイソトープ治療

骨転移がんに対する治療として、ゾーフィゴ(塩化ラジウム(Ra-223))を経静脈的に投与すると、骨の代謝が活発な骨転移巣に集まり、放出されたアルファ線が、骨転移部位のがん細胞の増殖を抑える。治療可能な施設は限られている。当院で治療可能である。