大腸がん

大腸とは

大腸は右下腹部で小腸とつながっていて、腹部を時計回りに走行して肛門に至る約1.5mから2mぐらいの臓器です。結腸と直腸を合わせて大腸と呼んでいます。主な役割は水分を吸収することで、栄養素の吸収はほとんど行いません。そのため大腸を切除すると水分の吸収が低下して、軟便になったり下痢になったりします。

(大腸がん治療ガイドラインの解説2006年版より)

大腸がんとは

大腸の粘膜という内側の表面をおおう膜から発生します。だんだん大腸の深い層へと広がり(浸潤といいます)、大きくなると大腸の外側にはみだして、周辺の臓器まで浸潤することもあります。また、血管の中を通って肝臓や肺などに広がったり、リンパ管の中を通ってリンパ節に広がったり、おなかの腹膜に直接散らばるように広がったりすることがあります。これらを転移と呼んでいます。

(大腸がん治療ガイドラインの解説2006年版より)

大腸がんの患者数

大腸がんは毎年増加しているがんの一つです。死亡者数では男性で肺がん、胃がんについで第3位、女性では第1位、男女合わせると肺がんに次いで第2位のがんです。がんになられる方の数では男性で前立腺がん、胃がんについで第3位、女性で乳がんに次いで第2位、男女合わせると第1位のがんであり、国内で最も重要ながんの一つです。

(厚生労働省令和元年(2019) 人口動態統計月報年計(概数)の概況より))

大腸がんの症状

早期の段階ではほとんど自覚症状はありませんが、大きくなると血便(便に血が混じる)、下血(肛門から出血する)、下痢と便秘を繰り返す、便が細くなる、腹痛、腹満感、貧血、体重減少などの症状が現れます。血便、下血といった症状が出たときに痔などの病気によるものと思って放置すると、がんが進行してしまいますので、早めに検査を行って早期発見することがとても重要です。

大腸がんの検査方法

大腸がん検診:免疫学的便潜血検査

早期に大腸がんを発見できるように便検査による大腸がん検診を行っています。40歳以上の男女に毎年の便検査が推奨されています。約7%が陽性となりますが、陽性の方には精密検査として内視鏡検査が必要となります。陽性の方の約3%で大腸がんが発見されます。症状がなく検診で発見された大腸がんは、症状が出現してから発見された大腸がんよりも治癒率が高いことがわかっています。早期発見・早期治療が可能となるため、便検査による大腸がん検診を強く推奨します。

内視鏡検査

おしりから内視鏡を大腸に挿入して大腸内を観察する検査です。がんを直接観察できる上、組織を採取して病理検査に提出することができます(生検といいます)。大腸の検査としては最も精密な検査です。大腸がんが疑われるものについては、最新の内視鏡技術(NBI;Narrow Band Image、拡大内視鏡検査)によって診断を行い、治療方針を決定します。

注腸検査

おしりからバリウムなどの造影剤という薬を注入してレントゲンを撮ります。腸の形をみることでがんの場所や大きさ、形などを調べることができます。

CT検査

体を輪切りにした画像を作成して体内を立体的に精密に調べる検査です。がんの大きさ、広がりのほか、リンパ節転移や肝臓、肺などの遠隔転移の有無について検査することができます。病気の進行度を調べるために必ず実施する検査です。

大腸CT検査

炭酸ガスで大腸を膨らませてからCTを撮ることで大腸の内腔を内視鏡と同じようにみることができる検査です。内視鏡のような苦痛がないというメリットがある一方で、生検やポリープの切除はできないなどのデメリットもあります。

MRI検査

肝臓や骨盤内のがんの精密検査などを目的に行います。検査時間が少しかかりますが、直腸がんの周囲への広がり具合や小さな肝転移の有無などCTよりも正確な情報を得ることができます。

PET検査

CT検査やMRI検査では病変の形をみて診断しているのに対してPET検査ではブドウ糖の代謝などの機能をみることができます。これにより悪性の病変にだけ色がついて見える(異常集積といいます)ため、病変の性質も同時に知ることができます。病変の良悪性の鑑別にとても有用な検査です。また、全身を一度に調べることができるため、他の臓器にもがんがあるかどうかも調べることができます。

病期(ステージ)について

大腸がんは大きくはステージ0からIVまでに分けられています。がんの広がり、リンパ節の転移の程度、そのほかの遠隔転移の程度から決定しています。がんが大腸の壁内にとどまる状態ではステージ0からIと診断され、大腸の深い層に広がってくる(浸潤といいます)とステージII、周辺のリンパ節に転移が広がるとステージIII、血液の流れに乗って肝臓や肺などに転移したり、腹膜や遠いところのリンパ節まで転移したりするとステージIVと診断されます。ステージ0からIの患者さまの5年生存率は90%以上であり、ステージIIで約85%、ステージIIIでも70%程度ありますが、ステージIVでは約20%まで低下します。大腸がんは比較的治療によって治ることの多いがんでありますが、早期に発見することがとても重要だということになります。

(大腸がん治療ガイドライン2019年版)

(大腸がん治療ガイドラインの解説2006年版より)

内科的な治療方法

内視鏡的治療

コールドスネアポリペクトミー(CSP)

日帰り手術となります。10mm未満の良性ポリープに対しての治療となり、金属の輪(スネア)で把持しながら切除します。この方法では、電気を使わずに切除しますので、治療後の傷は小さく傷は治りやすく、治療後の出血は少ないです。

①マーキング
スネア(輪状のワイヤー)をかぶせる

②スネアを縮める
EMRと違い通電せずにスネアを縮めていく

③切除完了
切除完了と同時に切除組織を回収する

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内視鏡的粘膜切除術(EMR)

1~2泊の入院となります。10~20mmの良性ポリープや早期大腸がんに対しての治療となります。病変の下にヒアルロン酸ナトリウムを注射し壁を厚くして、病変を高く盛り上げて金属の輪(スネア)で把持しながら電気を使い、通電して熱凝固しながら切除します。切除後には止血目的でクリップをします。偶発症として穿孔(0.1%)や後出血(1%)があります。内視鏡的治療で完治したかどうかは、切除した病変は病理組織診断を行い判断します。がんが残っている恐れがあれば、外科手術を追加します。

①薬剤を注射
生理食塩水を注射

②スネアをかぶせる
スネア(輪状のワイヤー)をかぶせる

③スネアを縮める
通電しながらスネアを縮める

④切除完了
切除完了と同時に切除組織を回収する

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外科的な治療方法

手術ではがんそのものを切除するために前後の腸管も5から10cm程度含めるように切除し、同時にがんの周囲のリンパ節も切除します(リンパ節郭清といいます)。当院では大腸外科、内視鏡外科の専門医を中心に患者さまにとって最も有効かつ低侵襲な(体の負担が少ない)治療を行っています。

腹腔鏡手術

以前は約30センチ程度の切開を行って開腹手術を行っていましたが、現在は腹腔鏡を使った手術が主流となっており、約5センチ程度の小さな傷で行えることが多くなっています。当院では日本内視鏡外科学会の技術認定医という資格を持った外科医を中心に約85%の患者さまに腹腔鏡下手術を行っています。

腹腔鏡手術

(大腸がん治療ガイドラインの解説2006年版より)

手術支援ロボットダヴィンチ手術

視野を5~15倍まで拡大することができ、カメラ自体も術者が自在に操作できます。従来の腹腔鏡手術は、助手がカメラを操作していたため視野の作り方が難しく手ぶれが生じることもありました。ダヴィンチは、人の目より自由に見たいところを見ることができます。例えば、従来の直腸がん手術では見えにくかった細かい血管や神経・臓器の境界などが確認できるようになります。ダヴィンチ独自の機能で術者の手ぶれも防止されます。操作が容易で人間の手首や指と同じように操作できます。残すべき骨盤内臓器の神経をしっかり確認・温存し、排尿機能や性機能に優しく、安全な手術が期待できます。

ダヴィンチのページはこちら

肛門温存手術

肛門に近い下部直腸のがんでは永久的な人工肛門となることが多かったのですが、肛門を残す手術が発達したことで現在は永久的な人工肛門となることは少なくなっています。特に早期の直腸がんではほとんどの場合、肛門を残すことが可能となりました。当科では括約筋間直腸切除術という比較的新しい手術方法の導入、抗がん剤や放射線治療でがんを縮小させてから手術を行うといった取り組みにより、肛門の温存に努めています。

集学的治療

少し進行した状態の患者さまに対して抗がん剤や放射線などの手術以外の治療方法と手術を組み合わせて治療を行うことで手術の治療成績を向上させる治療を集学的治療と呼びます。当院では化学療法室に加えて放射線治療設備も備えており、放射線治療専門医も在籍しておりますので、様々な治療を組み合わせることで簡単に切除できない進行した状態の患者さまも治すことができるように治療に取り組んでいます。

転移に対する外科的治療

大腸がんは肝臓や肺などに転移があっても切除可能な状態であれば切除することで治癒が見込めるがんとされています。当院では呼吸器外科専門医、肝胆膵外科専門医が在籍しており、遠隔転移のある患者さまに対しても各領域の専門医と連携して治療方針を決定し、できるだけ切除して治癒できるように治療方針を決めています。

その他の治療法

化学療法

手術で取り除くことが困難な場合や手術だけでは再発の危険性が危惧される場合では抗がん剤で治療を行うこととなります。従来の抗がん剤に加え、分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬という新しい薬が登場し、薬物療法の選択肢が広がりました。治療法の選択にあたっては、効果と副作用のバランス、患者さまの希望やライフスタイル、遺伝子検査の結果などが考慮されます。薬物療法の中には長時間の点滴注射が必要となる治療法もあります。そのような場合でも、抗がん剤が入った携帯用ポンプを用いることにより、自宅で点滴を続けることができます。まず、血管につながったカテーテルという管と、ポート(注射針を刺す部分)を胸か腕に埋め込むための比較的簡単な処置を行います。このポートに携帯用ポンプをつなぐと、ポンプの中の抗がん剤が一定量ずつ注入されていく仕組みになっています。当院では化学療法室を備え、抗がん剤治療専門の治療室で化学療法認定看護師、腫瘍内科医を中心に安全な治療に心がけています。

放射線療法

切除が難しい転移などに対しては放射線治療で治療することも可能です。当院では放射線治療設備に加えて放射線治療専門の医師、放射線技師が在籍しており、安全かつ効果的な治療に取り組んでいます。特に体力、全身状態、ご希望などの理由で手術を受けられない患者さまの肝臓や肺などの転移に対して、放射線治療を行うことで治癒できる場合もあります。低侵襲かつ治療効果も高く、非常に有用な治療方法です。

ステント治療

大腸がんの約10%に腸閉塞を初発症状としてみられます。大腸が閉塞し、腸管内に便や腸液やガスが溜まって腸が拡張し破裂する危険があります。緊急手術ができない方で腸管閉塞を解除する方法です。閉じた状態の形状記憶の筒状の金網(ステント)を大腸内視鏡で確認しながら、おしりから内視鏡と一緒に挿入してがんによって閉塞している場所で開きます。すると、大腸の通りが回復して数日で食事がとれるようになり、自力で排便もできるようになります。

治療の流れ

当院では内視鏡検査などでがんが見つかると外科、内科、放射線科、病理部の医師と医師以外の医療スタッフが集まって毎週開催されるキャンサーボードという会議で治療方針を検討します。患者さまにとって最善の治療方針を決めるために専門家が集まってカンファレンスを行っています。

その結果、内科での治療を行う場合はそのまま内科での入院と治療の日程を決定します。外科での治療を行う場合は外科に紹介されて手術に必要な術前検査(血液検査、レントゲン、心電図など)を受けていただき、手術内容と手術日を決めることになります。当院では内科と外科の連携をスムースにすることでがんが見つかってから2週間から3週間以内に手術を行うようにしています。お体の状態やご病状によってはもう少し時間がかかることもあります。

治すためには

大腸がんを治すためには早期発見が最も重要です。下血や腹痛などの症状があれば早めに検査を受けていただくことはとても重要ですし、症状が出る前に見つけることはさらに重要です。

当院では予防医療センターも備えており、検便のような簡単な検査で大腸がんをチェックすることが可能です。早期発見のためには自覚症状が出る前に見つけることがとても重要ですので、ぜひ定期的な健診を受けるように心がけてください。

当院での治療実績

2018 2019 2020 2021 2022
大腸がん手術総数 75 65 82 64 73
結腸がん 開腹手術 15 13 7 5 7
腹腔鏡手術 37 35 45 40 31
直腸がん 開腹手術 6 3 3 3 5
腹腔鏡手術 17 14 27 16 30
内視鏡治療総数 内視鏡切除 34 48 41 57 61