胃がん

胃がんについて

胃がんは大腸がんに次いで日本人に多いがんであり、およそ男性の9人に1人、女性の19人に1人が一生に一度は胃がんにかかると言われています。しかし、早期発見によって治りやすいがんであり、超高齢社会のため胃がんになる方が増えているにもかかわらず、胃がんで亡くなる方は減ってきています。
平成30年の全国集計によると、胃がんと診断された方の約27%が内視鏡切除、約22%が外科切除を受けておられます。

  • 早期発見なら、内視鏡切除が多く、進行していれば外科切除が必要になります
  • 転移があるなどで切除ができない場合は、薬物療法で予後の改善をめざします

スキルス胃がん

胃がんの種類の中には、胃の壁や組織を厚く硬くさせながら染み込んでいくように広がっていくタイプがあり、これを「スキルス胃がん」といいます。早期のスキルス胃がんは、通常の胃がんとは異なり、潰瘍などの病変を作らないため、内視鏡検査で見つけることが難しいことから、症状が現れて見つかったときには進行していることが多く、治りにくいがんです。

胃がん全体の7%、進行胃がんに限定すると15%がスキルス胃がんと言われており、手術ができる段階で発見されたとしても5年生存率が15~20%と、胃がん全体の実測生存率の61.5%(2010-2011年)と比べるととても低い状況にあります。

胃がんの原因と予防

胃がんの原因のほとんどがピロリ菌と言われており、ピロリ菌除菌によって胃がんを予防できると考えられています。除菌後も胃がんのリスクは残るため、毎年の上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)が勧められています。

胃がんの病期と治療

胃がんの治療には、内視鏡治療、手術、薬物療法などがあります。

治療法は、がんの進み具合(病期)、全身状態、年齢、合併するほかの病気などを考慮して決定します。

病期(ステージ)

胃がんと診断された段階で、がんの進行の程度は患者さまによって大きく異なります。進行の程度は病期(ステー ジ)として表され、早期から進行につれてI期からIV期と分類されます。

病期(ステージ)はがんの深さの程度(Tカテゴリー)、リンパ節転移の有無・程度(Nカテゴリー)、遠隔転移の有無(Mカテゴリー)の組み合わせで決まります。

胃がんの深逹度

日本胃癌学会編「胃癌取扱い規約 第15版 (2017年10月」(金原出版)より一部改変

 
胃がんの病理分類

日本胃癌学会「胃癌取扱い規約第15版」(金原出版)より一部改変

病期(ステージ)による治療方法の選択

治療前には、内視鏡検査・バリウムによる胃透視検査や CT検査で病期を診断し、治療の仕方を 決定します。場合によってはPET検査やMRI検査を追加することがあります。全身状態、年齢、 合併するほかの病気などを考慮して最終的に決定します。

日本胃癌学会「胃癌治療ガイドライン医師用 (第5版)」(金原出版)を参考に作成

内視鏡での診断と治療

胃がんの予防と早期発見のために、まず胃カメラを受けていただくことが大切です。

ピロリ菌感染が判明した場合は、胃がんの予防のために除菌療法をお勧めします。胃カメラを受けることに抵抗を感じる方のために、経鼻内視鏡(鼻から入れられる細い胃カメラ)や鎮静(点滴で麻酔をしながらの検査)などで楽に検査を受けていただけるよう取り組んでいます。

内視鏡治療は、おなかを切らずに胃カメラで胃の粘膜病変部だけを切除する治療であり、胃は元通り残りますので、治療後の回復も早く、食生活への影響が少ない治癒が望めます。

内視鏡治療の方法

内視鏡での切除の方法には、高周波のナイフで切り取る内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)や輪状のワイヤー(スネア)をかけて切り取る内視鏡的粘膜切除術(EMR)があります。がんの大きさや部位、悪性度、潰瘍があるかなどにより治療方法を選びます。

近年は、治療の適応の拡大や技術的な進歩により、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が普及しています。EMRはがんが2cm以下で潰瘍がないなどが実施の条件ですが、ESDではがんがそれ以上の大きさだったり、潰瘍の傷あとを伴っていたりしても、内視鏡切除を目指せます。内視鏡切除を目指すべきかどうかは、がんの大きさや部位、悪性度、深達度(がんの深さ)、潰瘍があるか、患者さまの状態などを総合的に判断して決定します。

切除したがんの顕微鏡の組織検査で転移再発のリスクを評価し、追加治療の必要性を判断します。

手術治療

内視鏡での治療の適応外で、遠隔(肝臓など)転移がない患者さまには手術治療を行います。手術はがんの場所や大きさなどによって、胃を全部摘出(胃全摘術)、出口側の胃を2/3切除(幽門側胃切除術)、入り口側の胃を1/2切除(噴門側胃切除術)などの術式が選ばれます。

胃全摘術(胃の全切除)

幽門側胃切除(出口側の胃2/3切除)

噴門側胃切除(入口側の胃1/2切除)

日本胃癌学会「胃癌治療ガイドライン医師用 (第5版)」(金原出版)より一部改変

胃がんの腹腔鏡手術

現在、日本胃がん学会による胃がん治療ガイドラインでは「ステージIの外科的治療の選択肢の一つとして腹腔鏡下胃切除を推奨する」とされており、現在進行中の臨床試験の結果によってさらに進んだステ ージでも腹腔鏡手術が推奨されることが予想されます。(当院ではかなり進行した胃がん患者さまを除いて、胃がん手術の約70%で腹腔鏡手術を行っています)

腹腔鏡手術は従来の開腹手術にくらべ低侵襲で、術後の痛みの軽減や早期の社会復帰が可能となりますが、モニターを見ながら特殊な鉗子を使って手術操作を行う必要があり、高い技量が求められます。ガイドラインでも「日本内視鏡外科学会の技術認定医もしくは同等の技量を有する指導医のもとで行うべきである。」とされており、当院では全例、日本内視鏡外科学会の技術認定医による執刀または 指導の下に行っております。

*腹腔鏡手術とは:おなかに小さな穴を開けて、そこから腹腔鏡の小型カメラと切除器具を入れ、モニターで画像を見ながら、手術を行います。術後の創は小さく目立ちません。

腹腔鏡下胃切除術後の傷痕

開腹手術での胃切除術後の傷痕

手術支援ロボット ダヴィンチ手術

視野を5~15倍まで拡大することができ、カメラ自体も術者が自在に操作できます。従来の腹腔鏡手術は、助手がカメラを操作していたため視野の作り方が難しく手ぶれが生じることもありました。ダヴィンチは、人の目より自由に見たいところを見ることができます。

ダヴィンチのページはこちら

術前・術後補助化学療法

早期の胃がんであれば95%以上の患者さまが手術のみで根治することが可能ですが、大きな腫瘍であったり、リンパ節転移を多く認めるような腫瘍に関しては、手術を施行しても約半数の患者さまが術後に再発します。そこで再発率を下げるために、手術の前後に薬物療法(抗がん剤治療)を併せて行います。

*再発とは:手術の時点でCTなどの検査ではわからないような微小な転移が全身に拡がってしまっていて、術後時間が経ってから微小な転移が大きくなって検査でわかるようになることをいいます。根治を目指す手術を施行しても、再発してしまった場合は残念ながら根治することは困難となります。

術後補助化学療法

手術でがんを完全に取りきれたとしてもステージII-IIIの患者さまでは、約半数の患者さまが術後に再発します。術後の抗がん剤治療にて微小な転移を攻撃することで再発率を下げることが可能となります。ステージII-IIIの患者さまは術後半年間から1年間の抗がん剤治療を行うことをお勧めしております。抗がん剤治療には内服だけのもの内服と点滴を組み合わせたものがありますが、ステージや年齢・基礎疾患などに応じて決定します。

術前補助化学療法

高度のリンパ節転移を認める患者さまの手術では完全切除が困難であったり、切除できたとしてもかなり高い確率で再発してしまいます。安全確実に完全切除する可能性を高め、術後の再発率を低下さることを目指して、手術前に薬物療法(抗がん剤治療)を施行します。

またがんが巨大で膵臓や肝臓など他の臓器に浸潤を認める患者さまは、他の臓器の合併切除が必要となります。そういった患者さまに対しても手術前に薬物療法(抗がん剤治療)を施行することで、他の臓器の合併切除を回避することを目指します。

胃周囲に高度のリンパ節転移を認めた症例
胃周囲に8cmほどに腫大したリンパ節転移と腹腔動脈という大きな血管の周囲に3cmほどに腫大したリンパ節転移を認めました。このままでは完全に切除することが難しいと考えて、手術の前に、SOX(S1+オキサリプラチン)療法を3コース施行しました。リンパ節は著明に小さくなり安全・確実に完全切除ができました。

薬物療法(抗がん剤治療)

全身にがんが転移(遠隔転移)してしまっている患者さまや手術の後にがんが再発してしまった患者さま には、抗がん剤による薬物治療を行います。がんによる症状が現れるのを遅らせ、予後を改善させることをめざします。以前は入院での抗がん剤治療が一般的でしたが、現在は外来化学療法室に通院して治療を行うことがほとんどであり、仕事や日常の生活を維持しながら治療を継続することが可能になってい ます。

この5年ほどで分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬など新しいタイプの抗がん剤も含めて、さまざまな抗がん剤が胃がんでも使用できるようになりました。

Conversion(コンバージョン)手術

以前は遠隔転移がある患者さまのがんの完全切除は困難でありましたが、抗がん剤治療の進歩にともなって、画像検査で遠隔転移が消失できる患者さまもまれではありますが見られるようになっています。そういった患者さまには、研究段階の治療戦略ですが残っているがんの完全切除を目指す Conversion(コンバージョン)手術を行い、さらなる予後改善やがんの根治を目指します。

肝臓に10cm弱の巨大な遠隔転移を認めた症例
肝臓の転移は大きな肝静脈や下大静脈の近くにあり、切除は不可能であり、抗がん剤治療を行いました。SP療法(S1+シスプラチン)を3コース施 行したところ肝転移は3cmにまで縮小したため、Conversion手術を施行する方針としました。リンパ 節郭清をともなう胃切除と肝左葉切除で完全切除が可能でありました。

頸のリンパ節に遠隔転移を認めた症例
2年4か月間4種類の抗がん剤治療を行い、頸のリンパ節転移を含めて遠隔転移はCTやPETなどの画像検査で消失しました。胃にはがんが残っていたため、リンパ節郭清をともなう胃切除で完全切除が可能でありました。

放射線療法

再発してしまった患者さまの中でも、再発している腫瘍が限局している場合には放射線療法を施行されることがあります。

また、切除が不可能な胃がんが進行すると、がんからの出血による貧血やがんによって胃が狭くなって(狭窄)食べ物が食べにくくなるなど、“生活の質”(Quality of Life(クオリティ・オブ・ライフ))が低下してしまうことがあります。そういったがんに放射線療法を行うことで出血を止めたり(止血)、狭窄を軽減し、“生活の質”を改善させることを目指します。

胃がんの根治手術後に膵臓周囲のリンパ節に再発を認めた症例
再発したリンパ節に放射線療法を行い(抗がん剤治療も併用)、治療終了後には画像検査で転移リンパ節は消失しました。その後も4年にわたって再増大は認めておりません。